瀬名秀明 20


大空のドロテ I


2012/10/15

 長編としては久々となる、瀬名秀明さんの新刊が到着した。全3巻に及ぶ冒険小説で、3ヵ月連続刊行される。大作だが、第I巻のページ数は300pに満たない。これなら手を出しやすいかと思って読み始めたのだが…。

 時代は第一次大戦終結後の1919年。フランス、ノルマンディーにある町ドンフロンに、サーカス団がやって来た。少年ジャンは、飛行機乗りの少女ドロテと出会うが、彼女は何者かに狙われているらしい。ドロテは、怪盗ルパンが狙うメダルを持っていた。

 本作は、モーリス・ルブランの手によるアルセーヌ・ルパン・シリーズを元に、瀬名秀明さんが新たに描いた物語である。シャーロック・ホームズ・シリーズは制覇した僕だが、アルセーヌ・ルパン・シリーズは1作たりとも読んだことはない。この時点でかなり苦しかったことを、読み始めてすぐに痛感させられたのだった。

 ドロテが謎の敵に追われ、ジャンも巻き込まれるまでも唐突すぎて戸惑うが、一連のルパン作品を知っているという前提で書かれており、脚注もなくそれらの記述が出てくるため、長さの割には読み進めるのに難儀した。クイーンの国名シリーズを知らずに北村薫さんの『ニッポン硬貨の謎』を読んだときも、ここまでつっかえなかったと思う。

 予習していないのが悪いと言われればそれまでだが、第I巻からわかることは、ドロテとジャンが巨大な陰謀に巻き込まれたこと。アクションシーンだけは僕にも緊迫感がわかる。そして、予想通りとはいえ、まだ幼い2人にはあまりにも酷な仕打ちが待ち受ける。ドロテはともかく、本来無関係のジャンは、首を突っ込んでしまったばかりに…。

 さらに、実在した作家G・K・チェスタトンが、警察の助っ人として登場する。チェスタトンについては、ブラウン神父シリーズの作者であることしか知らないし、もちろん作品を読んだこともない。どうせならシャーロック・ホームズに登場していただいた方が…。

 冒険譚としてはほんの序章であり、第II巻以降で物語が大きく動くのだろうか。できることなら、予備知識がなくても楽しめる展開を期待したい…。



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