真保裕一 03


震源


2000/07/14

 大抵の場合、小説のエピローグはおまけみたいなものである。クライマックスはとっくに終わっている。しかし、本作は違う。エピローグまで読んで初めて、真相が明らかになる。こんなしびれるエピローグには、なかなかお目にかかれない。

 地震で津波が発生し、警報が遅れるという事故が起こった。ミスを犯した係官の森本は職場を追われる。同僚だった地震火山研究官の江坂は、鹿児島に森本を訪ねるが、彼は同窓の大学教授と共に姿を消していた。地震の観測データを持ったまま…。その背後には、壮大な国家的陰謀が渦巻いていた。

 ネタばれだが、これには領海問題が絡んでいる。日本のような島国にとって、領海は重要な意味を持つ。ちっぽけな島を一つ失えば、広大な領海を失うことになる。実際、我が国は波による侵食で消滅寸前だった沖ノ鳥島を、コンクリートで覆うという保全工事を実施している。現在、沖ノ鳥島は国の直轄管理下にある。

 そう考えると、技術的に可能かどうかは別として、こんな突拍子もない計画も現実味を帯びてくるような気がする…と思っていたら、本当の目的は別のところにあった。それはエピローグで明らかになる。周到かつ緻密なシナリオを練り上げた門倉司郎には、平伏するしかない。実際には真保さんが練り上げたのだが。どうしたらこんな話を思い付くのだろうか…。

 嫌味な人物だと思っていた門倉は、揺るぎない信念に支えられた人物であり、部下を思いやる人物だったのだ。こんな言葉を使うのは柄じゃないのだが、彼ほど「男気」を強く感じる人物はいない。門倉の闘いは、まだ始まったばかりだ。叶わぬ願いだろうけど、続きを読んでみたいなあ。

 本作とは関係ない話だが、最近の三宅島の火山活動で、気象庁の地震火山研究官の方々は忙しい日々を送っていることだろう。



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