真保裕一 07


奪取


2000/05/09

 真保さんの長編作品は、文字通り長い。本作『奪取』は、既刊の長編作品の中で最長である。しかし、長さを意識させない面白さと濃密さを備えた、娯楽大作だ。第50回日本推理作家協会賞、第10回山本周五郎賞同時受賞という栄冠にも輝いた。

 簡単に述べると、本作は偽札作りに挑む若者たちの物語である。大きく分けると三つの章で構成されている。当然ながら、偽札作りは国家の威信に関わる大罪である。のみならず、きな臭い連中が目を光らせている。主人公の若者は、必然的に偽名を使うことを強いられる。

 様々な困難や悲劇に直面しながらも、彼らは助け合いながら偽札作りの技術をレベルアップしていく。このレベルアップの過程が本当に面白い。日本の紙幣は、あらゆる印刷技術の結晶である。さらに、特殊な紙を使用しており、透かしも入っている。クリアしなければならない課題は数限りない。それらの山のような課題を、時間と戦いながら一つ一つクリアしていくスピーディーな展開に、心を躍らされた。

 これだけは、真保さんの濃密な取材に触れないわけにはいかない。彼らの偽札は、最終的には限りなく本物に肉薄する。しかし、僕個人としては、紙幣識別機の盲点を突いた第一の章が一番面白かったかな。あまり詳しく書くと未読の方の楽しみを奪ってしまうので、このくらいに留めておこう。

 また、本作の作風が他の長編作品と一線を画しているのも大いに注目される。内容が重くなりがちな真保作品にあって、本作のユーモア溢れる軽妙な文体は異彩を放っている。軽妙とは言いつつ、彼らの友情には時折胸を打たれる。今時こんな友情はなかなかないんじゃないだろうか。

 そして、ラストシーン…。まあ、世の中こんなものか。真保さんにこんな遊び心があったのはちょっと意外だったな。とにかく、本作は絶対お勧め。未読の方は是非是非ご一読を!



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