真保裕一 08


奇跡の人


2000/07/19

 本作は、真保さんの作品としてはジャーナリスティックな要素が比較的薄い。そういう点では意欲作だと思う。しかし、内容的には…。

 講談社の文庫情報誌「IN★POCKET」1999年5月号で、東野さんと真保さんの特集が組まれていた。その中で、関口苑生氏は本作を評して次のように述べている。「奇跡の人」じゃなくて「勝手な人」だ、と。僕はこの特集を読んだ時点では本作を未読だったのだが、読み終えた感想は関口氏とまったく同感だった。

 本作の主人公相馬克己は、交通事故で重傷を負ってしまった。脳死直前という状態から、克己は奇跡的な回復を遂げる。克己の母は、あなたは奇跡の人なのだ、と日記に記す。八年という歳月を経て、克己はついに退院の日を迎えた。この時、克己は31歳。しかし、事故に遭う以前の記憶が、克己の脳裡から欠落していた。まったくの白紙状態から、克己の第二の人生が始まる。

 いわゆる記憶喪失ものである。当然ながら、克己は失われた過去を追い求めて旅に出る。設定によれば、克己は退院時には中学一年生の教科書を勉強していた。しかし、過去を知りたい切実な思いがエネルギーになったとはいえ、克己の知能と行動力はとても中学一年生の教科書を勉強しているとは思えない。この点に関しては、確かに「奇跡の人」だろう。

 克己はかつて自分が住んでいた街を訪れる。そして…この先が、なぜ「勝手な人」なのかに関わってくるのだが、どこまで書いていいのかな。克己の行動は、純粋に「会いたい」気持ちの表れではあるのだが、あまりにも相手の立場というものを考慮していないんじゃないか? 克己を応援したい気持ちが、急速に萎えてくる。

 ラストシーンは…感動的というより自業自得じゃないか? 果たして奇跡は二度起きるのだろうか。あなたがそこまでする理由はないんじゃないの、〇子さん…。



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