真保裕一 11 | ||
トライアル |
日本のプロスポーツで、最も登録選手数が多いのは何か? 答えは競輪である。とはいえ、競輪をスポーツとして捉える方はごく少数に違いない。僕は競輪場に行ったことはないが、一時はせっせとJRAに貢いでいたので…。
本作は、競馬、競輪、競艇、オートレースという日本における四大公営ギャンブルをテーマにした短編集である。レース開催日、これらの会場には一攫千金を目論む多くの人間たちの欲望が渦巻く。一方で、賭けの対象となる選手たちは、何を思ってゴールを目指すのか? 本作を読めば、公営ギャンブルに対する認識が変わるかもしれない。
言うまでもなく、これらのスポーツはすべて賞金制である。成績が収入に直結する、公平かつ厳しい世界。億単位の賞金を稼ぎ出す一握りのトップ選手の陰に、多くの無名の選手たちがひしめく。しかし、上を目指して努力する者たちがいるかと思えば、良からぬことを企む者たちもいる。
這い上がりたいが故に、魔が差す者。不当に高配当を得ようとする人間から脅迫を受ける者。様々な思惑が交錯する中で、レースの開始時刻が迫る。
賭ける立場から見れば、選手の心理やレースの舞台裏など二の次だろう。期待されるのは、勝つこと。たとえどれだけ勝つ確率の少ない選手にも、投票する人間がいる。背負った期待に、倍率に責任がある。トップ選手も、下位の選手も、誰もが責任を負うからこそレースは面白い。けれど僕は勝てない…。
公営ギャンブルファンなら、新たな魅力を発見できるかもしれない。ファンではない方にも、伝わるものがあるはずだ。真保作品だけに、読み応えは保証する。
余談だが、あるテレビ番組の特集で66歳の競輪選手の引退レースを放映していた。多くのファンに見送られてのラストランにはじーんときてしまった。片道15分の自転車通勤でさえひいこら言っている僕としては、ひたすら敬服するしかない。