真保裕一 12


ボーダーライン


2002/08/19

 ボーダーライン…それは国境線。また、民主主義国家アメリカ合衆国における、白人を頂点としたヒエラルキーの境界線。そして、人として一線を踏み越えた者と、人としての尊厳を留める者とを隔てる、見えない境界線。

 1999年に刊行された本作は、アメリカを舞台とした探偵小説である。主人公は、日本を捨てアメリカでライセンスを取得した日本人探偵、サム永岡。日本を舞台に日本人が活躍する探偵小説ならいくらでも例があるが、アメリカを舞台とした作品となると他に思いつかない。文庫化を機に再読したが、まったく色褪せていないことを実感した。

 普段は日本人旅行者のトラブル処理に追われるサム永岡が、日本人青年の捜索を依頼される。彼は日本で消息を絶った後、渡米していた。メキシコとの国境付近の町で出会ったその青年は、天使のような無垢な笑顔で、平然と引金を引く男だった…。 

 真保さんらしく重厚なテーマに彩られた本作。今回のテーマは危険をはらんでいる。一線を越えた者と、そうでない者を隔てるボーダーラインとは何なのか。環境? 親の接し方? あるいは…持って生まれた資質? ぶっちゃけた言い方をしてしまえば、殺人者は生まれながらにして殺人者なのか?

 子の不始末は、親の、家族の不始末と世間は見る。罪を犯した子の親として、あるべき態度とは何だろう。子に示すべき愛情とは何だろう。幸いにして親族に犯罪者がいない僕は答えを持たない。おそらく青年の父親も。そしてサム永岡も。

 アメリカを舞台に、「自由の国」の歪んだ側面をあぶり出しながら、実はアメリカから見た日本批判である点が耳が痛い。日本だって、アメリカだって、他のどこの国だって問題を抱えている。だが、アメリカ暮らしがどれだけ長かろうと、グリーンカードを取得していようと、サム永岡にとって日本の問題は他人事ではない。日本人である限り。

 傑作であるのは認めるが、この暑い時期にはお薦めできない作品かな。決して答えが出ないテーマに向き合うには、読書の秋がいい。



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