真保裕一 14 | ||
黄金の島 |
『ボーダーライン』以来、約2年ぶりの長編作品である。相変わらず長いが、相変わらずの真保節をたっぷりと堪能させてもらった。
組織を追われて、ベトナムへと逃亡してきた日本人ヤクザ、坂口修司。南部の大都市ホーチミンで、彼が出会ったシクロ乗りの若者たち。日本に行けば、冷蔵庫やテレビのある暮らしができる。自由も手に入る。ベトナムの若者たちは、夢見ていた…。
本作は、カイたちベトナムの若者から見たベトナム批判という側面と同時に、彼らを見つめる修司から見た日本批判という側面が強い。ベトナムの若者たちは、母国に絶望している。修司は母国を恥じ、また自らを恥じてもいる。
「ドイモイ」なる言葉を一時はよく報道で耳にしたものだが、ベトナム政府が推進したその政策の恩恵に与れたベトナム国民が、一体どれだけいたというのか。ドイモイが着実に成果を上げているという日本での報道とは裏腹に、毎日必死でシクロをこぐカイたちはおこぼれにすら与っていない。だが、しかし…。
日本という国に、命を賭してまで渡る価値があるのか。日本人の修司には、ただ愚かで無謀にしか思えない。しかし、純粋で無垢な夢は現実を凌駕する。たとえ修司から見ればサッカリンだろうと、ベトナムの若者たちには極上の白砂糖なのだ。結束の固いカイたちとて時には衝突もするが、抱く夢は同じ。
『黄金の島』というタイトルと結末に、強烈な皮肉が込められている。多くの日本人から見て、日本という国はもはや「黄金の島」ではないに違いない。しかし、「黄金の島」に夢を馳せる人々が今なお存在するという現実。彼らにとって、日本は未来永劫「黄金の島」であり続けるのだろう。
特権階級のみが富を握るベトナムという国の現実と共に、決してそれを批判できない日本という国の現実を突きつける一作だ。本作を読み終えると、自分が日本人であるという事実から目を背けたくなるかもしれない。しかし、誇りを持つのは難しくても、日本人として生きる以外に道はない。真保さんにまたしてもやられたな。