真保裕一 28


デパートへ行こう!


2009/09/06

名作『ホワイトアウト』を超える、緊張感あふれる大展開!

 という帯の一文は、残念ながら看板に偽りありと言わざるを得ない。真保裕一さんの新刊は、今までにない意欲作かと思い、期待して手に取ったのだが…。

 深夜のデパートに、何故か訳ありの人間たちばかりが一同に会し、それぞれの事情で闇の中を蠢いていた。やがて彼らは玉撞きのごとく騒動を巻き起こす。

 設定からして、シチュエーション・コメディやアクション・コメディを想像して読み始めたのだが、これがいけなかったかのか。なぜなら、本作はどこをどう切っても従来通りの真保作品なのである。最初からそのつもりで読めば、少しは見方が違ったかもしれない。

 こんなに偶然に関係者が集まるもんかいっ! などとは言わない。エンターテイメントに多少のご都合主義は付きもの。問題は登場人物にある。デビュー以来、真保作品の主人公といえば、妙に律儀である。それが奏功し、読者に訴えた作品も多くある。

 ところが本作は、特定の主人公がいない多視点を採用している。そのため、律儀な人間だらけになっている。それぞれに辛い過去を抱えた彼ら。真摯に生きるのが悪いとは言わないけども…こんな立場になったら、人間ってまず自分のことを考えるんじゃないか? 誰も彼もが、いつの間にやら利己主義を鞘に収め、身を投げうつ…。

 一番気になるのは、結局真保さんは何をしたかったのかということである。エンターテイメントとして理屈抜きに楽しませたかったのか。それとも泣かせたかったのか。泣かせたかったのなら、深夜のデパートが舞台である必要はない。むしろ、鈴膳百貨店再建を巡る、得意の社会派作品にした方がよかったのではないか。

 まとめ方も無理矢理だが、最後の演出もかなりベタ。コメディに徹し切れないのが、真保さんらしいといえば真保さんらしいかな…。



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