真保裕一 34


ローカル線で行こう!


2013/02/22

 本作の舞台は、架空の第三セクターの鉄道、もりはら鉄道である。宮城県にあるという設定から察するに、JR東北本線に接続する石越駅から、細倉マインパーク前駅までを結んでいた、くりはら田園鉄道をモデルにしていると思われる。

 県下最大のお荷物と言われ、赤字に喘ぐもりはら鉄道。そんな廃線の瀬戸際に立つ鉄道を立て直すため、沿線の森中町長にして会長の五木田が白羽の矢を立てたのは…新幹線のカリスマ・アテンダントとして鳴らした篠宮亜佐美、31歳。

 ぐだぐだとあらすじを述べるより、読んでいただく方が手っ取り早い。「お金がないなら、知恵を出すのよ!」と社員に発破をかけ、次々とアイデアを連発する亜佐美。県庁から出向している鵜沢を始め、最初は戸惑っていた社員たち。

 ところが、沿線の町も巻き込み、もり鉄が活気づくにつれて、社員の目の色が変わってきた。亜佐美の熱意が社員だけでなく地元も動かした。過疎化が進む町に残る人々には、やはり地元への愛着があるのだ。しかし…順風満帆とはいかないのがお約束。

 亜佐美の社長就任後から、様々な妨害行為がもり鉄を襲う。そして、水を差すなどという言い方は生ぬるい、あの悪夢…。現実にもこういうことは起こるし、鉄道会社の責任として対応しなければならないが、もり鉄にとっては致命傷になりかねない。

 あからさまになっていく妨害にも決して挫けない亜佐美と、その姿を間近で見てきた社員。警察が証拠もなしに動けないなら、自ら動く。背後の影を察知した亜佐美は、鵜沢や五木田と手分けして捜査に乗り出す。もちろん通常業務に支障が出てはならない。

 ただでさえ連日のハードワーク。どうしてここまで頑張れるのか。地元愛もあるのだろうが、新幹線アテンダント時代の苦い経験も、亜佐美を駆り立てる一因だろう。そして鵜沢も、もり鉄への出向が決まるまで紆余曲折があった。2人とも挫折を知っている。

 社運をかけた「もり鉄フェスティバル」での大団円には苦笑したが、笑いあり涙ありのベタな展開は実にエンターテイメントのツボを押さえている。現実のくりはら田園鉄道は2007年4月に廃止されたが、もりはら電鉄は末永く存続してほしい。



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