梓崎 優 01


叫びと祈り


2010/12/13

 週刊文春ミステリーベスト10第2位、本格ミステリ・ベスト10第2位、このミステリーがすごい!第3位と、3大ランキングすべてでベスト3入り。例年この時期に新しい作家を物色するミーハー読者の僕は、早速入手したのだった。

 本作は、世界各地を旅する斉木が、異様な事件に巡り遭う作品集である。第5回ミステリーズ!新人賞を受賞した「砂漠を走る船の道」に、4編を追加して単行本化された。

 綾辻行人、有栖川有栖、辻真先各氏の絶賛を受けたという「砂漠を走る船の道」。生きる糧を得るため砂漠を巡るキャラバンに、同行した斉木。その帰路で、連続殺人事件が発生した…。動機の部分はともかく、あっちの罠にやられた。卑怯だ、卑怯すぎる。

 「白い巨人」。スペインの風車の丘で恋人と別れた青年。1年後、斉木が悲しみが癒えない彼を同じ場所に連れ出した狙いとは。真面目に考えさせてそんなオチ? それより…またそんな手かよっ! 「砂漠を走る船の道」より卑怯だ、卑怯すぎる。

 「凍れるルーシー」。モスクワの神父に同行し、ロシア南部の小さな修道院を訪れた斉木。そこで起きた悲劇とは…。嗚呼、宗教ネタ。修道院に立ち入ろうなどとは間違っても思わない僕には、動機と背景にある信仰を、真に理解することはできない。

 さて、本格らしい体裁を持つのはここまで。残る2編は、ミステリー色が薄く、心理描写に重きを置いている印象を受ける。同時に、残り2編こそ本作の要でもある。

 「叫び」。南米アマゾンのある部族の集落を、英国人医師とともに訪れた斉木。部族を襲った脅威とは。動機と結末の皮肉なコントラストに言葉もない。全編のまとめ的な位置づけの「祈り」。ゴア・ドア――日本語で言えば「祈りの洞窟」は、何のために作られた? やがて、旅人を名乗る男が告げた真実とは…言えません。

 それぞれ閉じた状況を作り出し、また動機に重点を置いている点は、石持浅海作品を彷彿とさせるが、石持作品と比較して動機は何となく受け入れられるし、閉じた状況の作り方はずっと洗練されている(失礼)。大型新人との触れ込みに偽りはない。



梓崎優著作リストに戻る