高見広春 01


バトル・ロワイアル


2000/05/18

 繰り返しになるが、本作は「某社ホラー小説大賞落選」作品である。その問題性のみが一人歩きする中、縁あって耳慣れない出版社から刊行されることとなった。

 率直に言って、これは面白い。賞を取ろうが取るまいが、面白いものは面白い。

 本作が漫画だったら、誰も目くじらを立てなかっただろう。残虐さという点では、『北斗の拳』の方がはるかに上である。どうも選考委員のお歴々は、文壇はかくあるべし、というような頼りない幻想にしがみついているように感じざるを得ない。読者にしてみれば、面白いことが何よりも重要だというのに。

 内容は、ざっくり言ってしまうと中学生同士の殺し合いである。全体主義国家、大東亜共和国における悪夢のゲームに選ばれた、香川県城岩町立城岩中学校3年B組の生徒42人。助かるのは最後まで生き残った一人だけ。それぞれの思いが交錯する中、ゲームの幕が開く。

 ふざけた設定である。しかし、ただの殺し合いかと思いきや、極限状態に追い込まれた生徒たちの、設定の弱さを補って余りあるドラマが展開される。

 親友の仇討ちをしようとする者。愛する人を守り通す者、あるいは探す者。手を差し伸べる者、裏切る者。決死の抵抗を試みる者。信じる者、信じ切れなかった者。自ら死を選ぶ者。ひたすらに冷酷無比な者、冷酷さの中に動揺を垣間見せる者。見所を挙げていったらきりがない。

 中学生同士が殺し合いを演じる。そりゃあ不快に違いないが、中学生じゃなくても殺人は不快だと相場が決まっている。にも関わらず、読者は連続殺人事件が起きるような小説を平気で読んでいる。フィクションであることをきちんと認識して、現実の事件とは別次元で捉えているからだ。言うまでもないことだが。

 猟奇殺人事件は許されて、本作は許されないという道理はないはずだ。いくら賞から落としたところで、本作が世に出ることになったのは必然だったのではないか。

 ただし、本作は話題性が先行したことは認めなけらばならない。次回作でこそ、作家高見広春の真価が問われる。



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