高村 薫 06


地を這う虫


2001/12/22

 現在のところ、高村薫さんの唯一の短編集である。文庫版しか読まんと言いつつ本作もハードカバーを借りて読むことができた。

 全5編を収録しているが、文庫版はなぜか改稿の上全4編となっており、収録順も変更されている。文庫版から漏れた一編は定年直前の警察官が主人公であり、他の4編は元警察官が主人公である。元警察官の物語に統一しようとしたのだろうか。

 それはともかく、長編は取っ付きにくい印象がある高村作品だが、本作は高村作品が持つ独特の空気を手軽に堪能するには打ってつけの作品集だ。文庫版に収録された4編に限って言えば、警察時代の習慣が哀しいまでに染み付いている主人公たちが実に興味深い。これは元警察官による警察小説と言っていい。

 「愁訴の花」。定年退職したはずの主人公だが、彼に流れる警察の血が解放してくれないようだ。警視庁と汚点となった過去の事件の記憶。その後が気になる。

 表題作「地を這う虫」は、タイトルを地でいく主人公に苦笑する。おいおい、そりゃ気味悪がられるだろうよ。あなた、いますぐ復帰しなさい。

 「巡り逢う人びと」の主人公は、結局は警察時代と同じく力を振りかざしている自分に気付き、愕然とする。これ…まずいんじゃないの?

 「父が来た道」なんて、司法・行政・立法の「三権分立」という嘘っぱちを書いている社会科の教科書よりよっぽどためになるかもね。蛙の子は蛙ってか。

 文庫版未収録の「去りゆく日に」は、警察官として最後の日に主人公が意地を見せる。適当に切り上げていいだと、冗談じゃない。これが漏れてしまうとはもったいないな。

 現在、新作長編を鋭意執筆中とのことだが、短編集ももっと出してほしい。なお、タイトルの「這う」という字は正確にはしんにょうの点が二つである。



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