高野和明 01 | ||
13階段 |
本作の参考文献に挙げられている、『死刑執行人の苦悩』という本を読んだことがある。現在の日本に死刑執行の専門官は存在せず、刑務官が担当する。刑場が設置された全国7拘置所・支所に勤務する刑務官なら、誰でも担当する可能性がある。
作中、刑務官の南郷は死刑に関わった過去を述懐する。前日からの予行の様子が描かれているが、『死刑執行人の苦悩』によれば、現在は当日に担当者に通知するという。事前に通知すると休まれるからである。拒否すれば、職務放棄として懲戒は免れまい。
職責を果たした南郷だからこそ、冤罪が疑われる死刑確定囚・樹原を、何とか助けたいと考えたのだろう。南郷は、松山刑務所勤務中に仮出所した青年・三上をパートナーにする。樹原の死刑確定から既に7年。再審請求は何度も退けられた。時間はない。
事件現場である南房総に拠点を置き、調査に動く2人。やっかいなことに、樹原には事件前後数時間の記憶がない。しかし、樹原の犯行を否定する証拠がなく、死刑判決が確定したのだ。唯一甦った「階段」の記憶だけを手がかりに、関係者に接触を図る。
南郷が2人の死刑に関わった一方、三上は傷害致死で懲役2年の判決を受け、満期まで数ヵ月を残して仮出所していた。親兄弟には申し訳なく思う一方、殺した相手への贖罪の情は一片もない(理由は最後に明かされる)。三上を突き動かしたものは何か。真犯人が見つかれば、樹原は釈放されるが、真犯人が死刑になる。狼狽を隠せない三上。
ついに見つかった決定的な証拠。しかし…。ここから物語は大きく展開する。そもそもの真犯人の犯行動機。うーむ、○○○ともあろう者が…。そして、この調査の真の目的とは。うーむ、執念のなせる業か…。荒唐無稽なようで緻密とでも言おうか。担当検事がやたらと協力的だったり、突っ込みたい点は多々あるが、スリリングで満足度は高い。
本作はあくまでエンターテイメントだが、死刑制度について考える契機にはなるだろう。国内外から非人道的と批判される日本の死刑制度だが、犯罪の凶悪化や遺族の厳罰感情を背景に、国民の支持率は高い。本作に死刑制度の是非を問う意図はないが、死刑制度は担当する刑務官の覚悟で成り立っていることを、忘れてはならない。