高野和明 05


6時間後に君は死ぬ


2012/02/08

 本作収録の5編中の2編、最初の「6時間後に君は死ぬ」と最後の「3時間後に僕は死ぬ」は、著者の高野和明さん自ら脚本と監督を務めて、WOWOWにてドラマ化された。

 最初の表題作「6時間後に君は死ぬ」。いきなり街でこう言われたら、まず相手にしないだろう。しかし、美緒は予知能力があるという青年、圭史の言葉に耳を傾ける。ちょうどストーカー被害に遭っていた美緒は、冗談として聞き流せなかった。

 美緒を刺殺する犯人は誰か? 残されたタイムリミットの中で捜索に走る2人。迫り来る緊迫感の演出と、二転三転する結末は実に見事だし、なるほどドラマ化にも打ってつけ。長編に膨らませることもできただろうが、短編にまとめたからこそ切れ味がある。

 途中を飛ばして、最後の「3時間後に僕は死ぬ」に触れておく。美緒と圭史が再会する。美緒は結婚式場で働いていて、そこで行われる披露宴に圭史は招待されていた。ところが、圭史の目に映ったのは、多数の死者が出る惨事だった…。

 タイムリミットは最初の半分。同じ会場では別のパーティーも行われていた。「容疑者」は比較にならないほど多い。ようやくわかった真相は、確かに予想外であった。悪意はないとだけ書いておこう。この構図を思いついた時点で高野さんの勝利。

 間の3編に美緒は登場しない。圭史がちょっとだけ出てくるが、彼はあくまで脇役である。「時の魔法使い」。脚本家を目指して夢を追い、夢に疲れた未来(みく)が体験した、不思議な出会い。「6時間後に君は死ぬ」から一転、心温まる物語ではないか。

 「恋をしてはいけない日」。彼氏をとっかえひっかえしていた未亜が、本当の恋に目覚める。残酷な結末はお約束。「ドールハウスのダンサー」。未来同様、ダンサーとして夢を追っていた美帆。夢破れ、たどり着いた先で見せられた、美帆の未来とは…。

 これら3編はファンタジーであり、知らずに読めば高野作品とは思えない。面白いけど、いずれもネタとしてはありきたりで、低予算ドラマの脚本みたいだ。エピローグも蛇足な気がする。全編を通して読めば、好対照で味わい深いと言えないこともないか。



高野和明著作リストに戻る