高野和明 06 | ||
ジェノサイド |
『ジェノサイド(genocide)』とは、特定の人種・民族・宗教に対する集団抹消行為を指し、一般には大量虐殺の意味で用いられる。内容のハードさは覚悟していた。
朝のオーバルオフィスで、米国大統領バーンズに1つの報告が上がる。人類滅亡の危機。かつての『ハイズマン・レポート』による指摘が現実のものとなった…。直ちに極秘計画が立案され、実行部隊の1人にジョナサン・イエーガーが選出された。
特殊部隊出身のイエーガーは、難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、民間軍事会社で傭兵として働いていた。金ならいくらでも欲しい彼は、作戦に乗る。イエーガーを含む4人の任務は、対象の抹殺である。人類全体への奉仕という美名の下に。
そして日本。急死した父親からのメールを受け取った、創薬化学を専攻する大学院生・古賀研人。謎めいた遺書を手がかりにたどって行くと、そこには…。さほど熱心な学生ではない研人に、重荷がのしかかる。そして追われる身となるのだった。
米国、アフリカのコンゴ民主共和国、日本。3地点で展開するスケールの大きな物語である。リアリティなどという言葉を使うのはもはや陳腐に思える。
最高権力者らしい自己顕示欲の塊であるバーンズ大統領。支える政府の側近も、忠誠というより自分に有利かどうかで動く。人間らしい。実に人間らしい。作戦を立案したルーベンスは、事態の深刻さと、権力者の本性に慄然とする。
イエーガーたち4人が現場で知った、作戦の裏の真相。彼らは謎の援軍の力を借り、アフリカからの脱出を図る。しかし、周囲には武装勢力がうごめく。ジェノサイドの生々しい描写に言葉を失う。我々は、例えばルワンダで大虐殺があったという知識はあっても、詳細に知ろうとはしない。これは今なおアフリカ各地で起きている現実なのだ。
そして、遠く離れた日本で命運を握る研人。韓国人留学生の助っ人が優秀すぎて、研人の貢献が薄い気がしないでもないが…。彼らの任務は、現代科学のはるか先を行く。創薬化学は素人の僕にも、緊張感が伝わってくる。ここまで責任重大な実験を、僕は生涯することはないだろう。いつしか科学者としての使命感が芽生えた研人。
本作の根幹をなす設定は、果たして絵空事だろうか。読み終えてみて、すべては大いなる力の影響下にあったことに、ただ驚嘆するしかない。