辻村深月 08 | ||
太陽の坐る場所 |
同級会というのは色々気を遣う。仲がよかった相手ばかりではないし、当時のヒエラルキーも忘れていない。それでも緊張しつつ行ってみれば、懐かしさが先に立ち、お互いの近況を報告し合う。本作のような腹の探りあいは…多分なかったと思うが。
東京近隣のF県にある高校の卒業生たちがクラス会を開いていた。卒業から10年経ち、もっかの話題は人気女優となったクラスメイトのキョウコ。欠席を続けるキョウコを何とか呼び出そうと画策する面々。その裏にはそれぞれの思惑があった。
毎年クラス会をするとは、さぞかし結束が固いのかと思いきや…。F県が東京近隣で、いつでも帰れる距離にあるのが第1のポイント。地元で働く者がいれば東京で働く者もいる。地元組は東京組に対するコンプレックスを隠せない。
そして、東京組は東京組で悲喜こもごもがあるのが第2のポイント。平凡なOLを装いつつ、実は強烈な願望と不満を抱いていた彼女。歪んだ悪意に耽り、悦に入る彼女。自らを虚飾し、苛立つ彼女。当時も今もクラスの顔役なのに、職場では人間関係に悩む彼…。高校時代の描写を織り交ぜつつ、当時何かがあったらしいことが仄めかされる。
ある人物が、章が変わるとまったく違う顔を見せ、本性をむき出しにするのが興味深い。僕の同級生も、腹の中では何かを考えていたのか、それはわからない。それでも、本作に描かれたような心理はわかる気がする。人間は見栄を張りたがる生き物だから。
最後の章で、初めて地元組が語り部を務める。ようやく明らかになる、辻村深月さんの巧妙な仕掛けが第3のポイント。読みながら感じていた違和感の正体は、これか。極めてずるい手だが、重要な意味がある。決して奇をてらったわけではない。
今をときめく人気女優キョウコ。クラス内、いや同学年全員の中でもダントツの勝ち組と言える彼女もまた、高校時代を引きずっていた。キョウコを巡り翻弄された元クラスメイトたちは、あの頃の自分に、今の自分に、何らかの決着をつけられただろうか。
僕からすれば、彼らはまだまだ若く、いくらでもやり直せるように思えるけども。