辻村深月 09


ふちなしのかがみ


2009/07/31

 帯いわく、「青春ミステリの気鋭」辻村深月さんが手がける、怪談集である。なかなか長編には手が出ないのだが、短編集ということで読んでみた。

 「踊り場の花子」は、極めて正統的な学校の怪談である。どこの小学校にも存在した七不思議の類。それだけに、ネタとしての難易度は高い。単なる怪談に留まらず、サイコサスペンスタッチの展開と徐々に真相に迫る緊迫感が見事。

 死んだ女児の同級生のインタビューを中心に展開する「ブランコをこぐ足」。子供時代、ブランコから飛んで遊んだ人は多いはず。僕自身は経験がないが、『キューピッド様』を巧みに取り入れている。『ハイジ』ネタの使い方の悪趣味さが何ともはや…。

 「おとうさん、したいがあるよ」って、何でそんなに冷静に対処できるんだよ…。1体や2体じゃない。死体がざっくざくの家なんて嫌だ。シチュエーションにそぐわない人物の冷静さが、奇妙な雰囲気を醸し出す逸品。しかし、これはブラックジョークかな。

 鏡よ鏡よ鏡さん、表題作「ふちなしのかがみ」。「踊り場の花子」にも鏡が出てきたが、こちらもサイコサスペンスタッチでうまい。なかなか話が見えないが、終盤に近づくと一気に収束し、最後に突き付けられる事実に愕然とする。才能というのは残酷だ…。

 「八月の天変地異」の主人公の少年のような心理は、僕にもわかる。田舎の子供社会は、人数が少ないだけに厳然としている。秘密基地という言葉の甘美な響き。結局大人に見つかったっけ。季節が大きな意味を持つ。怪談というよりファンタジーかな。

 5編とも完成度が高く、辻村深月作品を知らない読者にも楽しめる。この懐かしい作風は、綾辻行人さんや乙一さんのファンにも受け入れられるだろう。それだけに、辻村深月さんの個性がどこにあるのかが、気になるところではある。

 というのは一読者の戯言だと思って聞き流し、手に取っていただけると幸いである。



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