辻村深月 10 | ||
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 |
最初にお断りしておく。男性読者は覚悟して手に取るべきだろう。
東京で暮らすみずほと、地元の山梨に残ったチエミ。チエミが母を刺殺後、失踪してから半年。密かに山梨に戻ったみずほは、幼馴染みの行方を追うべく、チエミを知る関係者に接触していた。ライターをしているみずほに、他の同級生たちは言う。書くの?
東京の大学を卒業後、みずほは一旦は山梨に戻った。ずっと地元にいた同級生たちとの合コンに感じる違和感。ささやかな優位性の誇示と駆け引き。男性だってその場にいない誰かを酒の肴にしたりするし、珍しいことではないのかもしれないが…。
みずほは気が進まない相手にも会う。会う人会う人、チエミの悪口をぶちまける。それでも耐えて、少しでも行方に繋がる情報がないか、耳を傾ける。読んでいて不快に感じつつ、思う。彼らのような一面は、誰にでもある。僕自身にも、確実に。
躾と呼ぶには度を越えているみずほの母には驚かされる。一方で、政美が言うように、チエミと母の関係もある意味度を越えている。幼い頃、みずほとチエミはお互いの母を羨んでいた。そのことが現在でも影を落としている。母と娘のあり方とはなんだろう。
みずほがここまでしてチエミを探す目的が、序盤は皆目わからない。同級生たちが訝るのも無理はない。それだけに、第一章の終盤は衝撃的だ。なるほど、みずほの行動は、すべて裏づけのためだったのだ。瞬時に理解すると同時に暗転する。
残り1/5程度で第二章に入り、語り部はみずほからチエミに変わる。初めて自らの言葉で語るチエミ。そこには何の脚色もなく、痛々しいまでに本音がむき出しだ。チエミしか知らない、あの瞬間のショックと生々しさ。それでも母は最後まで母だった。
みずほの想像はほぼ当たっていた。ただ1点を除いて。この結末を酷と見るか、救いがあると見るか、大変悩ましい。基本的に、男性の居場所はない物語だと思し、一男性読者の僕が受け止めるには重い作品だ。描写があまりに切実なだけに。
しかし、最も予想外だったのはタイトル。そこから取るか…。