辻村深月 15


オーダーメイド殺人クラブ


2011/06/09

 『オーダーメイド殺人クラブ』とは物騒なタイトルだが、青春小説である。辻村深月さんの作風は、僕にとっては苦手の部類に入る。だが、本作はあらすじで興味を持った。

 主人公の女子中学生小林アンは、母の『赤毛のアン』好きが高じて「アン」と命名された。そんな母の干渉を疎ましく思い、友人関係にも閉塞感を抱く。どこにでもいそうな中学生像である。そんなアンが、「特別な存在」となるため、同級生の徳川勝利に依頼した。

 「私を、殺してくれない?」

 元々、アンには少年事件の新聞記事を切り抜いて集めたり、不気味な人形の写真集を書店で眺めたりという密かな嗜好があった。死ぬと決めたからには演出に凝りたい。そこいらの少年Aの模倣と思われるのは心外だ。ノートにプランを綴るアン。徳川とともに、長野県から秋葉原まで、はるばる写真撮影のリハーサルに行ったりもする。

 ところが、アンは揺らぐ。ふとした弾みで外したり外されたり、いつの間にか元に戻ったりという面倒な友人関係。ところが、あるきっかけから徹底的に外されたアンは、ボロボロに打ちのめされる。死ぬと決めたはずなのに。極めて自然な反応だろう。僕には自ら命を絶つ人の心理はわからないが、生への執着は簡単に捨てられないと思う。

 女性読者の方が共感できるだろうが、男子にとっても中学校が面倒な世界だったことに変わりはない。クラスのヒエラルキーはあった。僕は当時、不良連中とも先生とも、誰ともそこそこうまくやっていたつもりだったけれど、「蝙蝠」と思われていたかもしれない。

 ヒエラルキーの底辺に転落する以上にアンを打ちのめしたのが、ある事実だった。アンは徳川を詰る。そんなアンを徳川は突き放した。その程度の覚悟なのか。本当に死ぬ気があるのか。「昆虫系」などと見下していた徳川から、逆に見下されるとは。

 今度こそ本気で徳川を動かしたアン。いよいよ決行日…。きれいなばかりではない青春を描く辻村作品だが、最後はきれいにまとめちゃったかなあ。でも青春小説としてはこれでよかったかも。ええと、これってつまりアンは…。いい作品に出会えた。



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