辻村深月 20


島はぼくらと


2012/06/12

 ビターテイストだった第147回直木賞受賞作『鍵のない夢を見る』から約1年。辻村深月さんの新刊は、素直に染み入る青春小説だ。

 舞台は瀬戸内海に浮かぶ冴島。フェリーで本土の高校に通う4人の同級生は、本土からの終発が早いため、部活動ができない。自ずと行きも帰りも顔を合わせることになる。そんな彼らも、進学や就職でいずれは島を離れなければならない。1人を除いて。

 離島は一般に閉鎖的と思われがちだが、冴島は村長の方針でIターン者を積極的に受け入れていた。事情を抱えたシングルマザーも受け入れる、懐が深い面がある。元々の住人たちの人柄と、理解も大きいのだろう。表向きにはうまくいっているように見える。

 とはいえ、閉鎖性がまったくないわけではない。生まれ育った人間には、Iターン者には見えない面も見える。エゴと言ってしまうのは簡単だ。しかし、火山を抱えた冴島は、長年それで回ってきた。大人たちの言動の裏には、島への愛着がある。

 辻村さんが本作を書き下ろすに当たり、ある人物との出会いが大きいという。その肩書は一応伏せておく。作中にも登場するその肩書を持つ人物が、本作の鍵を握っているとだけ書いておこう。さあIターンいらっしゃい、などと簡単にいくわけではないのだ。

 東京への修学旅行で4人が企てた冒険。彼らがそこまでする背景は、島に暮らす彼らにしかわからない。ただ、他人事とは思えなかった。そして、辻村ファンには嬉しい演出が。最初の章で投げられた謎が、ようやく明かされる。

 親友というより同士に近い4人。それぞれ複雑な感情を抱えるが、卒業が近づくと、別れを意識せざるを得なくなる。離島に暮らす母たちは、15年で出て行く前提で子育てをする。当たり前の事実にハッとさせられる。本土からアクセスしやすい冴島も、また然り。

 卒業から年月は流れ、最後にまさかのサプライズが待っていた。初期作品のような起伏やドラマ性には欠けるかもしれないが、島の時間に身を委ねたい。



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