若竹七海 04


閉ざされた夏


2006/02/28

 いわゆる文豪と称される作家の作品を、僕はほとんど読んだことがない。国語の教科書に載っていた芥川龍之介作「羅生門」を読んで、なんじゃこりゃあ!(「太陽にほえろ!」における松田優作風に)と思った。何人も道連れにした末に新潮文庫の著者紹介が「入水自殺」で終わっている太宰治は、とんでもない奴だと思っている。

 さて、本作は若くして夭逝した高岩青十の文学記念館が舞台である。高岩青十とは、言うなれば架空の文豪か。今なお多くのファンに愛されているというが、きっとひねくれ者の僕には合わないに違いない。僕の地元岩手県には宮澤賢治記念館や石川啄木記念館があるが、なるほどこういう雰囲気の職場なのかなあと思って読んでいると…。

 連続放火未遂に始まり、旧高岩青十邸での遺体発見。和気藹々としているはずの記念館は蓋を開ければどろどろした話が出るわ出るわ…。成り行き上事件の謎を追うことになる、新入り学芸員の佐島才蔵と、妹で推理作家の楓。天才作家の過去に関係が?

 自分のミステリー読書歴を振り返ると色々な動機があったけれど、これほどまでに呆れた動機はない。職員たちの、青十への、記念館へ深い愛着を踏みにじるとは。しかし、それほどまでに愛着があったはずの被害者の行動にはやっぱり首をかしげてしまう。結局、本当に愛着があったのは…。これじゃ青十が浮かばれまい。

 正直、事件そのものは若竹七海さんの作品としてはありきたりである。それでも、才蔵・楓の兄妹探偵は魅力的だ。そして才蔵の同僚知佳。憎まれ口は愛情の裏返し? また、高岩青十という架空の作家にこれほどのリアリティが感じられるのはさすが。誰かモデルがいるのだろうか。事件のプロットよりこちらの設定の方に力が入っているような…。

 学芸員という仕事の熱気が伝わってくることにも触れておきたい。例えば、青十の日記に出てくる絵葉書を探し出す。候補が複数あれば他の資料から絞り込んでいく。必要なデータを集めて推論を裏付けるという点は、文系も理系も同じなんだよね。



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