若竹七海 11


スクランブル


2006/08/25

 一九八〇年、ある私立の女子高で一人の少女が殺された。それから十五年後、結婚式で再会した高校時代の仲間たち。迷宮入りした事件の謎に迫る…。

 過去と現在が並行して進むという趣向だが、謎の部分に限って言えば、あまり訴求力はないと思う。これはミステリー作家若竹七海が贈る、唯一の青春小説である。ただし、この方がただきれいなだけの青春を描くはずがない。

 青春とは美しい思い出だけではない。誰にでも、苦い記憶の一つや二つあるだろう。退屈さも、残酷さも、汚さも、すべてを内包しているのが青春というものだ。

 女性作家が女子高を舞台に描いた作品だけに、女性読者の方が入りやすいし、女性読者にしか伝わらないこともあるだろう。しかし、本作は女性のためだけの作品ではない。宇佐や夏見たち文芸部員を始め、登場する少女たちが垣間見せる潔癖さや青臭さの中に、すべての読者はかつての自分を見出すだろう。老若男女を問わず。

 読んでいる間、登場人物の描き分けが明確ではない点が気になっていた。誰の台詞だか混乱したのは一度や二度ではない。しかし、若竹七海さんの力量を考えると、これは意図的なのではないかと推察する。誰もが斜に構えつつ、日常に埋没することに抗いつつ、自分の無力さを承知してもいる。存在感を主張する特定の人物を配していないからこそ、本作はすべての人のための青春小説たり得ているのではないか。

 高校時代、僕は図書室で一冊も本を借りなかった。本を読む生徒は変わり者と見られていたし、今でもそうだろう。だからこそ思う。読書に没頭する青春があってもいいじゃないか。「青春=スポーツに打ち込むこと」と解釈されがちなのだから。

 読書にもスポーツにも打ち込まなかった僕だが、一つ言えるのは当時の自分は未熟だったということ。社会に出て10年以上が経つというのに、相変わらず未熟なままだ。



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