山白朝子 01

死者のための音楽

山白朝子短篇集

2011/12/30

 刊行当初から噂はあったのだろうが、山白朝子とは乙一氏の別名義の1つであることを、本人が公表した。今のところこの名義で刊行されたのは本作のみ。作風は、暗黒系「黒」乙一と切ない系「白」乙一の融合とでも言おうか。

 全7編の初出はメディアファクトリーの怪談専門誌「幽」であり、なるほど怪談らしき作品が揃っているが、それよりもオチがなかったり、時代がはっきりしなかったり、人物に名前がなかったり、色々な点で「曖昧」である。

 「長い旅のはじまり」。賊に殺された父と、腹を刺されたが一命を取り留めた娘。やがて娘は…。悲劇の伝説とでも言うべきか。旅に終わりはあるのか? 「井戸を下りる」。怪談で「井戸」というと『リング』を連想するが、この着眼点に脱帽。

 「黄金工場」。こんな工場があるなら僕も通いたいぞっ!!! と思ったら、世の中うまい話はないわけで…。唯一オチっぽい作品かな。「未完の像」。像も未完だが何より話が未完…以下略。そこを補う想像力が要求されるのか。

 「鬼物語」。そのまんま、鬼が人間を襲い、食って食って食って…。最も長いが最もひねりがない。「鳥とファフロッキーズ現象について」。鳥はホラーのモチーフによく用いられるが、心を持つ鳥は珍しい。展開の意外性と切ない結末。面目躍如の1編。

 表題作「死者のための音楽」。交互に続く母と娘の対話。その先にあるのは…。切ないと言っていいのか悩ましいが、美しい1編。

 解説を読むと、本作に感じた「曖昧」さの理由がわかった。曰く、乙一名義では閉じ方≠重視しているが、山白朝子名義では自由に書きたい。元々、乙一名義では多作とは言えないが、読者の期待がプレッシャーになるなら別名義もいいかもしれない。しかし、公表してしまった今ではあまり意味がないような気もするが…。



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