柳 広司 02


贋作『坊っちゃん』殺人事件


2011/01/05

 恥ずかしながら、いわゆる文豪の作品をほとんど読んでいない僕だが、本作を読むに当たり、元ネタである夏目漱石作『坊っちゃん』くらい読んでおこうと思い立った。これが面白い面白い。時代を超えて愛されてきたのも納得。誰が読んでも溜飲が下がる。

 東京から四国の城下町に教師として赴任するも、たった1ヵ月で東京に戻ってきた「おれ」は、3年後に元同僚の「山嵐」と再開する。2人が四国を去った直後に、あの教頭「赤シャツ」が自殺したという。「山嵐」は殺人ではないかと疑っているらしい。

 というわけで、四国を再訪する2人。本作は、名作『坊っちゃん』の裏側を暴くパスティーシュなのである。『坊っちゃん』を未読のままでも不自由はないし、本作の後に本家『坊っちゃん』を読めば何倍にも楽しめる、と文庫版解説には書いてあるが、先に本家を読んでおかないとチンプンカンプンではないか? 読者のお好み次第だが。

 本家『坊っちゃん』に引き続いて本作を読み始めたので、あったあったそれというシーンが続出し、ついにやにやしてしまう。元ネタをかなり忠実に生かしている。その上で、まったく別の解釈を与えてしまおうというのだ。元ネタを知らなければ驚けない。

 本家『坊っちゃん』は、シンプルに江戸っ子らしい義憤を描いている点が、今日まで愛読されてきた大きな要因だろう。ところが本作を読むと、あんなシーンやこんなシーンはことごとく伏線だったことになっている。そんなのありかよ。確かに着想は面白いし、細部に至るまで緻密だが、本家を貫く爽快感が損なわれた感は否めない。

 しかし、本家『坊っちゃん』同様、本作の世界でも何色にも染まらない「おれ」。彼の気っ風の良さで、本作は救われている気がする。って、何だよこの無理矢理なまとめ方。

 なお、本家『坊っちゃん』は文庫版で本文が180pほどだが、本作も文庫版で200pほどしかない。長さまでも本家を意識したのだろうか。



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