柳 広司 10 | ||
シートン(探偵)動物記 |
『シートン動物記』というタイトルくらいは、誰でも聞いたことがあるだろう。しかし、読んだことがある人はどれくらいいるか? 読書をしない子供だった僕も、タイトルは知っていたし、学校の図書室にも置かれていたけれど、読んだことは一切ない。
新聞記者である「私」は、サンタ・フェにあるシートン村≠ノアーネスト・トンプソン・シートン氏を訪ねた際に、シートン氏が経験した奇妙な殺人事件の顛末を聞かされた。これを物語風にして掲載したところ大反響を呼び、編集長からは続編を書くよう命じられ…。
というわけで、度々シートン氏に泣きつきネタを提供してもらう「私」。本作のポイントは、いずれの事件も動物が鍵を握っている点にある。動物への深い造詣と、シャーロック・ホームズに匹敵する観察眼を持つシートンだから解決できた。
有名なエピソード「狼王ロボ」を基にした「カランポーの悪魔」。『シートン動物記』を読んだことがなくても、シートンが真のナチュラリストであることがわかるだろう。どちらかといえば嫌われ者な烏だが、「銀の星(シルバー・スポット)」でその知能の高さを知るだろう。
「森の旗」と似た事例はよく聞く。人間は民族争いばかり。「牛小屋密室とナマズのジョー」は、オムニバス形式の2本立て。いずれもロジックが明快で面白い。「ロイヤル・アナロスタン失踪事件」を読んで思う。猫は雑種の方がかわいい。血統書に何の意味がある。
セオドア・ルーズベルトが実名で登場し、本作中ではやや異質な「三人の秘書官」。まさかそんな手段が…。シートンの主張を、米国人はどう思う? 最後の「熊王ジャック」は、「狼王ロボ」の熊版か。熊と人間の意外な共通点とは。
全編を通じて言えるのは、動物たちの気高さと比較して、人間という生き物の卑小さが際立っていることである。そんな人間たちによって、彼らの棲家は侵食されている。
ところで、各編のタイトルがシャーロック・ホームズ・シリーズの邦題に似ている気がするのだが。本作のホームズ役は、シートンだろうか動物たちだろうか?