柳 広司 16


キング&クイーン


2010/05/31

 評判の高い『ジョーカー・ゲーム』シリーズは未読なのだが、本作の『ジョーカー・ゲーム』を凌ぐとか究極の頭脳戦とかいう触れ込みは、オーバーではないか。

 元SPで、六本木のバー「ダズン」で働いていた冬木安奈に、元チェス世界王者のアンディー・ウォーカーを警護してほしいという依頼が舞い込む。依頼者の宋蓮花によると、彼は「アメリカ合衆国大統領」に狙われているという。

 僕は本作の紹介文を読んで、安奈が元SPの経験と頭脳を駆使して、アンディー・ウォーカーを守り抜くサスペンスタッチの内容を想像していたが、実際に読んでみると印象はかなり違っていた。中盤であんな展開になり、安奈以上に唖然…。

 チェス界に颯爽と現れた天才の半生や、チェスに関する薀蓄が挿入されているのだが、この比重がかなり高い。本作自体は大して長くはないのに、冗長な印象を受けるし、やや退屈でもある。これらが必要不可欠であることは、読み終えればわかるのだが。

 そもそも、日本人はチェスとなじみが薄い。作中で披露された戦略の凄さが、残念ながら僕にはわからない。わからなくても支障はないし、もっと突っ込んだ説明をしろとは言わないが(どうせ説明されてもわからない)、せめてあのメッセージくらいは図示すべきではないか? 文章だけで済ませるのはそっけないし、もったいない。

 安奈がSPを辞めるに至った経緯は、むしろ本題より興味深いかもしれない。安奈はきっちり任務を果たしたが、頭脳明晰でプライドが高いだけに、自分を責め、警視庁を去った。これだけでも長編が1本書けるだろう。過去の苦い記憶が、現在の安奈を駆り立てたのか。本作1作だけで降板させるには惜しいキャラクターだが、再登場はあるか?

 歴史ネタを好み、ややとっつきにくい感もある柳広司作品としては、ライトで読みやすいとは思う。ただ、最初に読む柳広司作品としてはどうだろう。



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