横山秀夫 01


陰の季節


2001/01/20

 長く新聞記者を務め、ノンフィクションの著作も残している横山秀夫さんの、初の小説の単行本である。全4編は、いずれもD県警を舞台とした警察小説だ。爽快な読後感を残す作品はない。描かれているのは、人間の汚さ、弱さ、哀しさ。しかし、その人間模様は読者を惹きつけて離さない。

 表題作の「陰の季節」は、陰の人事権者と囁かれる警務課調査官の二渡(ふたわたり)を主人公とした注目作だ。テーマはずばり天下り。なるほど、天下り先とは大相撲で言うところの親方株か。こりゃ、胃がいくつあっても足りなくなりそうである。二渡は、他の作品にもキーマンとして登場する。

 「地の声」の主人公は、監察課監察官の新堂のはず…なのだが、陰の主役はやはり二渡と言うしかない。一切の手心を加えず、妥協を許さぬ男、二渡。「エース」の称号は伊達ではない。情に流された新堂とは役者が違いすぎる。

 「黒い線」は、色々と考えさせられる。実際のところ、各都道府県警における婦人警察官の立場がどんなものなのか、僕にはわからないが…こんなものなのか? 「婦人」という言葉にさえも過剰に反応され兼ねないこの御時世である。二渡の決断やいかに?

 最後の「鞄」は…うーむ、秘書課課長補佐の柘植(つげ)さん、仮にも警察官の行動としてはあまりにもお粗末ではないかい? ばれようとばれまいと誉められたことではないが、おかげでラストは読めてしまったな。同じ穴の貉とでも言うべきか。

 目の付けどころに唸らされる作品集だが、警察機構の内情に通じていなければ、決してものにできまい。「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてんだ!」という台詞を有名にしたあの映画とは対照的な作品集だが、これもまた警察なのか。そう、事件は現場で起きる。しかし、現場が庁舎の外とは限らない。



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