横山秀夫 06


第三の時効


2003/02/11

 既に警察小説の旗手として確固たる地位を築いた横山秀夫さんだが、これまでの作品は馴染みの薄い職務に就く人間を描いたものが多かった。もちろんその点が、「警察小説=刑事捜査」という既成概念を覆す、横山流警察小説の新しさでもある。

 そんな横山さんが、本作では刑事捜査の最前線にいる男たちを描いている。F県警捜査一課強行犯捜査係に属する、三つの班。その名を県下に轟かし、捜査一課長でさえも扱いに苦慮する三人の班長と、その下の猛者たち。プライドとエゴの塊のような男たちが、事件解決を巡ってつばぜり合う。

 一班班長、理論派の朽木。通称青鬼。ある事件をきっかけに、彼は笑わなくなった。そんな彼の前で、犯人は笑えない。「沈黙のアリバイ」での部下の大失態。だが、朽木は強行一班の重荷に負けた部下とは違う。小悪党ごときでは相手が悪すぎる。冷たい目の色は、理論に裏打ちされた確信の表れ。

 二班班長、謀略派の楠見。公安出身ならではの秘密主義。一切の感情を感じさせず、女を徹底して忌み嫌う。表題作「第三の時効」に、その捜査手法が端的に描かれている。外道。邪道。何とでも言えるが、獲物は必ず落とす。この男にマークされた不運を、容疑者は呪わずにはいられない。

 三班班長、閃き派の村瀬。三人の中では唯一人間味を感じさせる存在。三班の捜査は、現場での村瀬の第一声から動き出す。三班に属する者にとって、彼の第一声は神の声に等しい。「密室の抜け穴」で三班班長代理を務めた東出は、その存在の大きさを思い知る。まだまだお前らの時代じゃないぜ。

 何もかもばらばらながら、捜査手腕は折り紙つきの三人の班長。指揮系統を無視する三人に苦々しい思いを抱きつつ、最強布陣を崩したくない田畑捜査一課長のジレンマが手に取るようにわかる。何しろその検挙率は100%近いのだ。

 三つの班を中心に描かれる濃厚なドラマ。やはり横山秀夫は一味違う。



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