横山秀夫 13


ルパンの消息


2005/05/23

 本作は、1991年に第9回サントリーミステリー大賞の佳作となったが、当時刊行されることはなかった。その後、1998年に短編「陰の季節」で第5回松本清張賞を受賞するまで7年を要する。そして押しも押されぬ人気作家となった現在、刊行が噂されていた幻のデビュー前の作品が遂にベールを脱いだ。早速貪るように読んでみた。

 警察小説に代表される横山作品の印象を僕なりに述べると、「円熟味」というところだろうか。デビュー前からプロの物書きとしてキャリアを積んでいたのだから、ある意味当然ではある。失礼ながら嫌な言い方をすれば、ネタ選びといい「計算高い」し「老獪」だ。

 本作はどうだろう。刊行に当たり当然改稿を経ているが、僕が勝手に思うにそれほど大幅な改稿は施していない印象を受けた。なぜなら、終始瑞々しさに溢れているからである。デビュー前ならではの、恐れを知らない勢いが心地良い。

 15年前に自殺として処理された女性教師の墜落死は、実は他殺だった―。一本のタレ込み電話がもたらされたのは、時効成立のわずか24時間前。犯人として名指しされたのは、当時教え子だった高校生3人。捜査陣は「ルパン作戦」に着目するが…。

 15年前に3人が実行した「ルパン作戦」の記憶を遡りながら物語は進む。計画そのものは他愛もないが、こういうスリルを求める気持ちはわかる気がする。彼らはどこにでもいるちょっとつっぱった高校生。図らずも事件に巻き込まれた彼らが、独自の調査に没頭する様子は10代らしい潔癖さや青臭さを感じさせる。本作が瑞々しい一因である。

 刻一刻と時効が迫る緊迫感の中、次々と明かされる封印された過去。二転三転する展開。突っ込む点は多々あるだろうが、そんなことはどうでもいい。緻密さがなくても勢いがある。これだけ多数のキーマンがいながらまったく気にならないのは、それぞれに深みを持たせた人物の描き分けもさることながら、ほとばしる情熱のなせる業。

 それにしても、未解決なことくらいは僕でも知っている「三億円事件」をこのように織り込むとは何たる大胆不敵。本作を読んだ当時の真犯人は、是非当サイトまで感想をお寄せください。…それは冗談として、フロッピーディスクが残っていたのは幸いだったなあ。



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