横山秀夫 14 | ||
震度0 |
久しぶりに来たよ来たよ、これぞ横山流「事件は会議室で起きている」警察小説。
大震災の朝、N県警本部の不破警務課長が失踪した。県警の事情に精通し、人望も厚い不破が姿を消したことに、県警幹部は右往左往する。"密室"を舞台に、6人の幹部の思惑と利害が交錯し、激しい内部抗争が繰り広げられる。
これは実質的に一幕劇だ。保身、野心、幹部会議に渦巻く様々な欲望。手持ちのカードを隠しながらの捜査の主導権争い。ある者は傍観者を決め込む。ある者は強者に擦り寄る。失踪の真相は二の次。6人の駆け引きこそ本作の読みどころなのだ。
キャリア組である県警本部長椎野勝巳46歳、ナンバー2に当たる警務部長冬木優一35歳。不破の失踪により、ある汚点が明るみに出ることを恐れる椎野。そんな椎野を上司とも思わず、自らを将来の警察庁長官と言ってはばからない冬木。キャリア組同士の滑稽な対立。だが、結局は経歴に瑕がつくことを避けたい、同じ穴の狢。
冬木に強烈な対抗意識を燃やす地元組の雄、刑事部長藤巻昭宣58歳。それは地元組トップとしてのキャリアの若造への対抗心であり、あるいは刑事部トップとしての警務部への対抗心。捜査の主導権を握るべく、「トップ」である椎野を丸め込もうとする。
内部抗争に疑問を感じ、情報は共有すべきと訴える警備部長堀川公雄51歳。至極正論なのだが、準キャリアという中途半端な立場が誤解を生む。どちらに付く気もないのに。冬木、藤巻、堀川には気概を感じるが、残る2人、生活安全部長倉本忠57歳と交通部長間宮民男57歳はやることなすことちっちぇえなあ。真相には絡んでくるわけだが。
幹部の妻たちの横の繋がりも大きなポイントであることにも触れておきたい。幹部の官舎は隣接しているので嫌でも顔を合わせる。夫の上下関係が妻たちの関係にも微妙に影響するのだ。もの哀しき警察官の妻たち。冬木の妻は末恐ろしい…。
最も重要なポイントは、堀川以外「不破の安否を気遣っていない」ことである。いかに傷付かず幕を引くか。いかにおこぼれに与るか。彼らに警察官としての良心は残っているのか。今後、N県警は組織の体を保っていられるのだろうか。現場の人間には知る由もない。