妙な完璧主義にワリ食った十一年式軽機

 我が帝国陸軍初の国産軽機関銃、十一年式。機関銃なのに連発で弾が出たためしがねえとか、射手は射撃よりも修理がうまかったとか、チェコ機銃の方がよかったとか、射撃持続力がないとか、現場からも戦後の批評家からもボロクソの評価のこの兵器、歴史に「if」は禁物と言いますが、この十一年式に「もし・・・」はあったのでしょうか?

 武器輸出大国ベルギー。この国の名門「ファブリク・ナシオナール」の最近のヒット商品といえば、アメリカも自衛隊も使っている分隊支援火器「ミニミ」。それまでドイツの汎用機関銃が切り開いたコンセプトである「汎用機関銃」というテーマを切り捨て、「歩兵と同じ小口径弾薬を使用した射撃持続力のある軽量機関銃」というコロンブスのタマゴ的なマーケットを開拓しました。

 たしかに、ドイツ軍の「汎用」思想のころは機関銃も歩兵銃も同じ弾薬だったからあれでよかったけど、いまは歩兵と重機関銃は射撃或が明確に分けられてるし、分隊軽機の射撃或は歩兵寄りであるべきじゃん、わざわざ重機と同じ重くて反動強いものを撃つ必要はないじゃん、という意見はごもっともです。すばらしい。

 で、このミニミ、実は我が十一年式軽機と同じコンセプトを持ってる部分があるんですよ。

 それは、「歩兵の持ってる歩兵銃用の弾薬クリップ(マガジン)をもらって、それをそのまま装填して射撃できる」こと。つまり、緊急時は歩兵と同じ補給体系でいけるというアイデア。実にナイス!(でも補給が完ぺきなアメちゃんはそんな機能は使わんのでいらんといってるとか・・・新しい分隊軽機にはこの機能はありません)

 十一年式は銃左横の箱にくだんのクリップを重ねていれる機構で、25発入ります。で、射撃時は下から順にホチキス機関銃のように弾おくりがスライドし、クリップの位置は変わらないので弾だけ抜かれて下に落ち、上に積んであったクリップが元の位置に戻った弾おくりの上にバネの力で押さえられ、という行程が延々と繰り返される仕組みです。軽機なんてものは点射しかしないので、合間合間にホッパーに5発1組のクリップを足しておけばベルト給弾なみの射撃持続力!完ぺきなコンセプト!ミニミに先駆けることおよそ60年!

 ところが、じっさいに戦場で使ってみると、うまく回転しない・・・これは、くだんの斬新な給弾機構のせいもあるだろうけれど、軽量化したいのに銃身に放熱ヒダなんかつけたため(銃を長持ちさせるため)に重くなっちゃううめあわせに、銃身を短く設定したらガスチューブも短くなって、そうなるとガス圧が下がりきらんうちにガスがピストンを下げはじめて、いいバネも使ってないこともあって薬室の圧が高いまま尾栓が解放され、膨らんで薬室に張り付いたまま引っ張り出された薬莢が切れて・・・なんせ、自動銃ははじめての体験ですからね。ここから試行錯誤して完成させればいいわけです。でも、不幸にもその対策が悪かった・・・薬莢が引っかかるなら油で潤滑/冷却しちゃえ!と・・・弾倉内の弾に油を塗る機構をつけちゃいました・・・大陸の戦場はホコリが凄いからって三八式に遊底覆いをつけた同じ陸軍のやることとも思えない暴挙・・・案の定、油まみれの弾はホコリを吸って、今度は排莢不良以前に遊底が閉まらなくなっちゃった!ダメダメです!ガスオペの銃は、ガス穴をいじって調整しなきゃいけないのに・・・

 「殺す気か!」の前線からの声に、次に打った手が、「弱裝弾」。薬莢切れは腔圧が高いんだから、弱裝弾で低い腔圧で使えばいいんじゃ!ウン!といったかどうかはともかく、それじゃ、「歩兵と共通の弾薬」っていう、一番大切なコンセプトがどっかいっちゃったじゃないですか!とほほ・・・

 で、けっきょく、この十一年式のコンセプトは捨てられて、恥も外聞もなくチェコ機銃のコピーをすることになるのですが、十一年式をふつうの6.5ミリ実包で動かすことはムリだったのでしょうか?

 ドイツ人は、「ローラーロッキング」という尾栓の閉鎖方法を思いつきました。これは、撃発後、下がろうとするボルトヘッドを遊底横のローラーを動かす作業をさせることで一定時間だけ後退を邪魔して開放を遅らせようという非常にピーキーなアイデアで、結局ローラーを動かすために最初からわずかではありますが後退しちゃうわけで、案の定薬莢切れが起き、彼らは薬室にフルートという縦方向のガス逃がしミゾを切ることで薬莢と薬室の間にむりやり発射ガスを漏れさせて捻じ込み、浮かせて引き離すことで薬莢切れ問題を解決、G3シリーズやMP5シリーズを実用化したのです。(ので排出された打ちガラは少し変形してます。)ううん、そんなに惜しいアイデアか?ローラーロッキング・・・

 十一年式にも、この「フルート」を切ることで油なんか塗らなくてもちゃんと動くということはわかっていたようなのですが、「そのような解決法は銃が完全な設計でないことを自ら認めるようなもので、設計として邪道である」とかで、試しもしなかったとか・・・あのう・・・最初にうまく動かなかった時点でもう失敗なんですけど・・・

 バランスの悪い完璧主義には気をつけなくてはいけません。何がクリアできればその問題にとって完璧なのか・・・つねに見失わないようにしないといけないと思うのでした。

 ちなみに、「邪道な解決法」でちゃんと動くようになったローラーロッキングの鉄砲を売りまくったヘッケラーとコッホ会社ですが、最新の設計では、看板のローラーロッキング、やめちゃいました。やっぱ、今までは意地でやってたのね・・・

 十一年式は発火ブローバック式モデルガンにしたら絶対におもしろいです。うまく動けばあの独特な給弾システムを堪能できるし、ジャムったら「あ、本物みたい!」って楽しくなりますよ。メーカーさんにしても、作動不良のクレームがきたら、「本物通りですから」なんて・・・どこかからでないかなあ・・20万円くらいまでなら出してもいいなあ・・・イヤ、絶対買うなあ・・・

 

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