すごいよ横シャッター!

 船にとって一番怖い事柄のひとつは、火事でしょう。ドンパチやる軍艦ならばなおのこと火事の危険は大きくなります。火災から弾薬が誘爆、とか、船体は無事でも上が全部燃えちゃったので自沈処分とか海戦物の戦記を読むとよく出てきます。

 とくに航空母艦。甲板の下はほとんど飛行機とその燃料・弾薬。浮かぶ燃料弾薬庫です。

 水線下に穴を開けなくても、一旦火がつけばどうしようもないことになることが多く、誘爆が怖くて救助に近寄るのは勇気がいります。

 とくに格納庫の入口がエレベーターしかない場合、飛行機に火がついたら一巻の終わり。さあどうしましょ。

 日本とイギリスは、「要は攻撃食らっても中まで弾通さなきゃ、火、つかないじゃん」とばかりに防御を強化した重たい空母をつくりました。大鳳やイラストリアス。これらトップへヴィぎみの浮かぶ装甲箱は、その装甲と引き換えに積める飛行機の数が大鳳で50機くらい、イラストリアスはなんと22機・・・空母としての機能を考えると明らかに能力不足です。もっとも、日本の場合は訓練の関係で乗せれる部隊があまりなかったというのがあったし、イギリスは敵がドイツやイタリアやフランスだし、戦艦部隊の補助、駆逐艦の延長みたいな考えがあったのでしょうからそれで満足だったのでしょう。大鳳は残念なことに事故の対処ミスで火災(!)の末に沈没。イラストリアスはかなりこっぴどく爆撃されましたが沈没しなかったのは積んでるものが少なかったからというのもあったかも。

 でアメリカ人の行き方はというと、「垂直方向はともかく、敵水上打撃部隊に水平方向から砲撃されるなんてシーン、めったにねえじゃん。第一、そんな破滅的なシチュエーションになる前に自分で積んでる飛行機でなんとかできるじゃん。それよりもっとありそうで避けられなそうで怖いのは垂直攻撃からの火事だよね!」ということで、なにがいちばんありそうで怖いのかをしぼって画期的なアイデアを出します。横シャッターです。

 イギリス人や日本人が必死になって恐れた対水上打撃部隊防御はあっさり放棄して格納庫の横方向はペラッペラ。大きな波風よけのシャッターのついた横方向の出入り口や気化燃料逃がしの通気窓をたくさんつけました。火がつきそうになったら燃えそうなものは全部ここから押しだして捨てちゃえばいいというまさにコロンブスの卵的なアイデアです。さらにグラマンの飛行機は日本機より上下と横方向に小さく畳めるので搭載可能な飛行機の数はなんと100機くらい(甲板にさらしとく分もはいってるらしい)!岸壁での積み下ろしもここからできるかも!すばらしい。

 さらにシャッターのひとつには舷側エレベーターがついていて、ここからなら飛行甲板に穴を開けずに上に飛行機を上げることができます。これもナイスアイデア!さらにカタパルトがあるから離艦にひやひやすることもありません。戦後、これらの要素にななめ甲板が加わることで発着艦が完全に独立し、現代の正統派空母の要素は全部揃うことになるのです。(スキージャンプは邪道?)

 我が海軍も、せっかく蒼龍とかで空母による砲戦をあきらめたんだから、大鳳にはここまで発想の転換をつきつめてほしかったかも・・・でも囲いがないと不安だったんだろうなあ。妙に第四艦隊事件の教訓があって、荒天時に困るとかいうことなのかもしれないけれど。でもあの教訓は、台風の時は作戦しちゃダメということだったのじゃないのかなあ。逆に、アメちゃんはそういう教訓がなくて台風時に作戦して大被害を受けてるとこがおもしろいですね。

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