間に合わせのスペック?

 かつて、ある戦史研究家の方の航空戦史エッセイに、「いち早く20ミリ機銃を採用した先見の明ある海軍に較べて、出遅れた陸軍の航空機関銃は、姑息にも軽い弾丸を使うことで口径と発射速度と初速だけ(スペックだけ)世界標準にあわせてごまかしたうんぬん= 悪(ドイツの短いMG131については無批判なのにね。)」という意味のことが書いてあるのを読んで、なんとまあ乱暴な意見だと思ったことでしたが、実際はどうだったのでしょうか。

 その文章でやり玉に上げられていたのはブローニング系12.7ミリの「ホー103」と20ミリの「ホ-5」両機関砲で、これらのカタログ諸元を同時期の列強の機関銃達と較べると、おもしろいことに、ホー103の弾薬は、イタリアのブレダ-SAFAT機関銃(これもブローニング系)と同じ12.7×81SR弾薬を使用していることがわかります。(本家キャリバー50は薬莢の長い12.7×99)

 なんのことはない、輸入したイ式重爆の旋回砲用の弾薬ストックをたぶん国内生産しちゃってたので、それを流用してという、誠に合理的な理由だったのではと思います。このブレダ砲、一式戦一型の初期の片側砲としても使われていたので、こと12.7ミリ砲に関してはべつにスペックをカタログ的にだけ間に合わせるための姑息な軽量化弾薬でもなんでもないと思うのです。開戦という危急の納期に間に合わせるために、手っ取り早く手元にあった、やはり軽戦至上主義のイタリアが軽い銃がいいということで選らんだ銃を、そのまま引き継いだのでしょう。

 仮に一式機関砲の企画の時点で「良識的判断」をして途中で別規格の12.7×99のフルサイズに切り替えたとしても、戦争に間に合わないのはもちろん、現場では貧弱な兵站が混乱して事故続発だったことでしょう。いろいろな規格の弾薬が乱立していた20ミリや7ミリ7と7.92ミリが混在していた旋回機銃に較べると、12.7ミリの規格が従来品であったということは、ブツが陸軍航空の主力武装なだけに幸いなことだったというべきです。(似て非なる弾薬規格の混乱は、地上部隊でもやっちゃってます。重機と小銃の7.7ミリが別規格、同じ口径の大砲でも年式がちがうと弾に一方通行にしか互換性がない、など。海軍の規格も含めると、日本の弾薬規格はまるで弾薬のバベルの塔。)

 まあ、アメリカに調達に行った我が陸軍の武官がコルトにだまされてスペックダウンの持て余し品を押しつけられたという可能性も無きにしもあらずですけどね。

 (姑息でない)「合理的」な理由と思われるものがもう一つ。当時軽戦至上主義だった陸軍航空では、機関銃はプロペラ圏内から撃つのが常識!かのイムメルマンもこれで勝ったとか古い戦訓にしがみついていたのかもしれず、はたまた当時あこがれのマトだった「ドイツ」が機首武装に執着しているのでこれがかっこいい、あこがれるう〜!と思ったのかもしれません。しかし、「コックピットの前に積む」にはフルサイズの12.7ミリのM2は長すぎるのです。たとえば、海軍のフルサイズの三式十三ミリ銃はゼロ戦の操縦席前に積むと尾部が完全にコックピット内に食い込みます。それでは不時着したときに危ないし、でかくて2銃積めません。2銃積むなら弾倉を前後にぶっ違える部分だけでも130ミリくらいは余分に食います。胴体に積むなら、銃は操縦席とエンジンの間に積めるように短くしなければいけません。フルサイズの銃身を詰めただけでは弾薬が強力すぎるし、ガス圧は同じなのでそれをこらえる機関部は頑丈にでっかいままなので、効果は薄い。で、ちょっと小さい弾薬は都合がいい。機関部も小さくつれます。

 もちろん、大局的に一歩下がって眺めてみれば、この「機首に積む」ことに固執したこと自体が間違いで、正解はアメリカ人やイギリス人の行き方だったことはいうまでもありません。ただ、「その場しのぎに初速と発射速度だけカタログスペック的に間に合わせたから小さい弾薬」ということではなかったということは確かなのではないでしょうか。

 ホ-5についても、べつにカタログスペックだけ間に合わせるために小型化したのではなく、単に「ちっちゃくて高性能、機首にも積める、機関砲の誉エンジン」をめざしたのかなあという気がします。けっきょくホ-5は機首には三式戦にしか積めなかったようですけれど。それも液冷で長い機首をさらに15センチ延長しないといけませんでした。しかも片方は砲尾がコックピットにめり込んでます。

 小型でバカみたといえば海軍の九九式二十ミリだって、軽いの軽いのといって短銃身にオープンボルトサイクルで軽量本体のエリコンなんかを選んだために発射時の振動と低初速で撃っても当たらない機関銃にしちゃって、あわてて新規にでっかい弾薬を採用して長くて重い銃身の二号銃を採用してます。実戦部隊に二種類の同口径で互換性のない弾薬!スマートネスです!(しかしこちらは先見の明を称えられこそすれ、無批判・・・)

 さらに、初期の二十ミリの榴弾は直接直角に防弾板に当たれば15ミリくらいなら打ち抜けたらしいのですけれども、実戦でアメリカ機を撃つと、ほとんどが外板に浅く当たってそこで砕けちゃっておしまいだったらしい。空戦時に角度着けて撃つんだから直角になんて当たるわけもなく、おまけにB17とかが相手だと、思ったより遠くから撃ってしまって届かなかったらしい。7.7ミリは届いたらしい。陸軍みたいに初速と発射速度が早いだけだと、すくなくとも目標に命中はするけれども致命傷にはならない。でも、海軍のみたいにいくら重い破壊力のある弾でも、当たらなければ持ってないのと一緒。こうしてみると、当初の海軍の20ミリも口径だけ間に合わせのスペックのように感じるのは、ぼくだけ?

 海軍はあとから大量に在庫のあったオチキスの13.2ミリ弾薬を使った三式13ミリ銃をつくりました。こっちの方がエリコンの一号20ミリ銃より発想が健全でトータルではいい気がする。防弾板撃ち抜いてパイロット殺せるし。陸軍のよりも当然いいでしょう。重いけど。でも三式。

 巡洋艦の最上型についても、8インチ8インチとカタログ上の口径にばかり固執してるように見えてしまったりする今日この頃。妙高型の8インチよりは良く当たったのかな?

 ちなみに、機首集中武装にいちばん血道をあげたのはソ連でしょう。ラグやらヤクやらの機首にコックピット位置を後退させてまで2種類3門以上の機関銃機関砲を左右アンバランスなこぶを作ってでもむりやり中に収めている様は、ちょっとトホホ心をくすぐりますね。好きです。

もどる 表紙へ