気にさわる翻訳語

映画「地獄の黙示録」で、ヘリの指揮官がガナーに北ベトナム軍のジープを射撃する指示を出すシーンがあったと思いますが、ぼくがはじめてあのシーンを見たときの吹替えだか字幕だかが、「あのジープを狙え!五十ミリ砲をつんでる!」となっていて、当時から軍事オタクだったぼくは、「キャリバー50っていえばいいのに・・・」とせっかくの迫力シーンが台なしになったような気がしたものでした。でも、このくらい大きく間違ってれば頭の切り替えも楽です。かえって、「ああ、五十ミリ砲って解釈されるくらいだから、むこうの人はキャリバー・ポイント・ファイブ・ゼロ(インチ)とか呼んではいないんだな、キャリバーフィフティーなんだな」と英語の勉強もできる気がするというものです。また、サブマシンガンを軽機関銃と混同するのも、まあしょうがない。これらは「誤訳」。で、これからぼくが攻撃するのは「新訳語」。一例を挙げますと、光人社文庫から出ている「沖縄」という本。自走砲を「自動推進砲」などというSFチックなロマンあふれるイメージの新語を作って訳してありましたけれど、直訳するならせめて「自力推進砲」くらいにはしてほしかったです。でもマア、こんなのもかわいいもの。使ってるのもこの本だけ。いまはどうってことなく流せる気になってしまってます。でも、こういう本を訳すなら、その国の言葉と日本語で同じ絵が載ってる本たちに目を通して専門語の確認くらいはしてほしいッス。

というのも、最近の翻訳物で非常に気にさわってしかたがない「新語」が出てきて、これが世間一般のドキュメンタリーとかフィクションの文中で非常に流行しはじめてるので、そっちにイライラがいってしまってるんです。その単語とは「空爆」。空から以外にどうやって爆弾を落とすのか!まるで、侍の武士とか、馬から落ちて落馬したとか、頭痛が痛むとかの低知性表現を一語にしたかのようなこのプロレス新聞用語のような品のない表現!日本語にはすでに、「爆撃」とか、「空襲」といった適切な言葉があるのに、なぜにこのような知性のない新語がまかり通っているのかと思うと、ちょっと切ない。さいきんアメリカ国籍をもってアメリカ兵だった方の回想を読みましたが、この方は現役の時は英語を使っていて、もちろん日本の用語は必要なかったでしょうから日本に来て最近の本で表現を採り入れたらしく、見事に「空爆」と使われてしまっていたので、外人に与える悪影響もでているということになります。それとも、アメリカ人も「air bombing」とか、「his F-16 air-bombed out the unluckey Iraqi tank」とかいってるんかな・・・?「air raid」なら「空襲」だけれども。

「監視所は空爆を要請した」は、「観測所(または監視哨)は爆撃を要請した」にしていただきたいです。

イヤ、ホント、空爆だけはやめて・・・ホントいらいらするから・・・自称専門家ならなおのこと・・・

そのうち自衛隊も使いはじめたら困るでしょ。「機関けん銃」みたいに、「爆撃機」だと専守防衛にならないから「空爆機」にしたら予算通りました・・とか・・・子供っぽくてシロウトっぽくて弱そうな響きだけど。

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