すばらしい、レムの世界

 

ポーランドが産んだ20世紀最高の作家(当社比)スタニスワフ・レム。ぼくはこの人の作品が大好きで、かなり持っています。宝物です。

人間の心についてのちょっと物悲しい考察や、それとは正反対のダジャレSF(この場合は翻訳者のダジャレセンスがかなりおもしろさに影響を与えるでしょうけれど・・・)、そしてパターンのない発想、センス。

この人の作品は、ぼくのものの考え方にかなりの影響を与えてしまいました。

これらすばらしい本たち、残念なことに、多くがいまでは入手困難ですが、ここに紹介させていただきましょう。(一部デンパ入り。)

 

タイトル
訳/出版社
概要と解説
ソラリスの陽の下に /早川文庫

タルコフスキーの映画で有名な超傑作SF。

惑星「ソラリス」の低軌道観測ステーションに補充の研究員としておもむいた主人公を待ち受ける異常な雰囲気。

さらに、主人公にも同じ事態が降りかかり、主人公はナゾを解明しようと調査を開始します。同棲していた恋人(?妻ではない感じ)とのトローマ、事件の記録を追うスリル。そして物悲しさ。

絵的なイメージも強烈です。

レムの作品に一貫して流れる、「一番近くにいる人間の心、さらに自分のこともわからないのに、壮大な宇宙のことをしりたがる矛盾」というテーマ。評論家によっては、ペシミスティックと表現されるこの無力感。神は人間のためだけにいるわけではないという気持ちになります。神学校にいたという経験は、かれにとって、また作品にとって、かなり有益なものだったようです。

ちなみに、タルコフスキーはその辺を一切無視して、人間のことしか考えてない解釈なので、ぼくはあの映画はキライ。薄っぺらです。でもナタリア・ボンダルチュクはきれい。(演技芋だけど許せるくらいきれい。)

ソラリス 沼野充義/国書刊行会 スタニスワフ・レム・コレクション
砂漠の惑星 /早川文庫

琴座太陽系の惑星「レギスIII」の探査にでたまま消息をたった巡洋艦コンドル号。その救援にむかった巡洋艦「無敵」号をおそうナゾとパニック。

ソラリスと打って変わって緊迫感あふれる戦闘シーンが、レムの得意技である「調査」をすすめるスリルと相まって、映画にしたらかなりおもしろそうなのですが、レムは「ソラリス」の一件以来、へそを曲げて映画化にはオーケーをださなくなったらしい。

「人間以外の知性と呼ばれるもののあり方」についてというのが、すべての作品を通してレムの描くもう一つのテーマなのですが、人間じゃない以上それは人間には理解できないというテーゼに共感を覚えます。

エデン 早川文庫

ファーストコンタクト3部作の(といっても続き物じゃないけど)最初の作品。

惑星「エデン」を偶然訪れた探査チームが遭遇するシュールな文明。

ここでも「謎解き」手法のおかげで物語はどんどん進みます。文明が、なんのためにあるのかという本質を見失ったエデン。エデンの主たちはなにを求め、これらシュールな文明を作り上げたのか・・・

描写の絵画的迫力は凄いものの、やはりこれは「ソラリス」、「無敵」につながるステップとして読むべきなのでしょう。レムが好きになってから読んであげてください。

星からの帰還 早川文庫

永い永い恒星間飛行ののち、百年以上未来の地球に戻ってきた主人公たち。

かれらを待ち受けていたのは、同じ人間なのに、時代の変化によっていわば異文明となった地球。「野蛮人」としてのかれらは、しかし、その「野蛮さ」こそがアイデンティティーなのでそのジレンマに苦悩します。かといって、人間であり以上、分明に溶け込まないわけにはいかない。苦悩の描写が秀逸です。

この作品も、見方をかえれば「コンタクト物」。しかもすばらしい料理のしかたです。レムのさらにもう一つの魅力「恋の苦悩」の描写を堪能してください。

天の声 /サンリオSF文庫

/国書刊行会 スタニスワフ・レム・コレクション

望遠鏡が捉えた深宇宙からのニュートリノは人間から見て、どう見ても規則性のある信号に思えたので、地球の数学的頭脳を集めてこれを解析するという「マスターズボイス計画」が起ち上がります。

そこに参加した一数学者がつづるジレンマの記録。えらい難解です。でも、所々に見られるアイデアはすばらしい。

人間の孤独感と人類の孤独感を、突き放して描いています。

神を感じることと神に祝福されることは同じではない。

捜査 /早川文庫

ロンドンで起きた連続死体盗難事件を追う刑事。SFというより、ウイリアム・アイリッシュとかが好きな人の方ムキかもしれませんが、ぼくはこの結末に用意された大どんでん返しで思わず虜になってしまいました。

この本がおもしろいと思った人は、津本陽の短編「魔物の時間」もおすすめ。

枯草熱(カタル) /サンリオSF文庫

/国書刊行会 スタニスワフ・レム・コレクション

元宇宙飛行士の探偵がイタリアで起きた連続怪死事件を調査する物語。

「捜査」と似た展開ですが、こちらの方がスリルはあるかもしれません。

最期の謎解きにはレムらしさがあふれています。

この本も大好き。

宇宙飛行士ピルクス物語 /早川 ピルクスが宇宙飛行士になって、さまざまな出来事に遭遇し、解決してゆくという短編集。それぞれにスリルあり、調査ありの名篇ぞろいです。一部はテレビ化されたらしい。文庫化しないかな?
ヽヽ「査問」(ユリイカ収録分) /ユリイカ00年00号 雑誌「ユリイカ」のレム特集号に掲載されました。これはタイトルのとおり、ピルクスを召喚した査問会という形式で事件の経過があらわになってゆくというドキュメンタリー手法が活かされた作品。
創世記ロボットの旅 早川文庫

原題は「ツィベリヤーダ(サイバネオデッセイって意味かな・・・)」

二人の「修道士」が、巻き起こす宇宙騒動。科学/文明だじゃれがいっぱい。翻訳者のセンスが光りますが、原語ではどんな表現なのでしょう・・・

ロボット物語 早川文庫 「ロボットの旅」の続編?こちらもダジャレにあふれた童話チックなSF短編集です。CGアニメにしたら楽しそう。
「異邦からの眺め」(フランツ・ロッテンシュタイナー編/¥¥¥¥¥訳/早川文庫所収 創世記ロボットの旅の主人公が活躍する短編を収録。東欧SF集です。
泰平ヨンの航宙日誌 早川文庫

宇宙ホラふき男爵をねらった(嫌いな言い方だけど)「ショートショート」SF.

ふざけてても、本当にありそうな科学ホラ話満載。マッドサイエンティスト物もあります。「胡蝶の夢」を実現する話や、「情報に質量があったなら」など、アイデアは涸れることをしりません。

泰平ヨンの回想録 早川文庫 数多くの冒険をした強者「泰平ヨン」が回想する自慢話。
泰平ヨンの未来学会議 角川 これも、内容をいうとおもしろくないのですが、しってもいいという方はここ
浴槽の中で発見された手記

/サンリオSF文庫

/集英社

超現実主義的な手法で書かれたシュールな作品。

20世紀、宇宙からのウイルスで世界中の紙が腐ってなくなってしまい、文明の記録が途絶してしまいます。(以上は物語の大筋にはまったく関係なし・・・)

数百年後、発掘された20世紀の遺跡で、浴槽に刻まれた記録が発見され、その全文を後世の考古学者の序説付きで紹介するという「架空の本」という非常に凝った形式の物語です。

すべてがシュールなのですが、映像にしたらすごくおもしろそう。レムは女の子の描写がうまいです。

サンリオと集英社で訳者がちがうので、ぼくはその微妙なニュアンスの違いを楽しんだりしています。サンリオの方が好きかな・・・

完全な真空 沼野充義、工藤幸雄、長谷見一雄 訳/国書刊行会 文学の冒険

架空の書物の批評集。もちろん、各批評の中ではそれらの本は存在しています。

サンリオで予告されていたのに、サンリオ文庫自体がなくなっちゃったのでがっかりしてたら、国書刊行会から予告があって・・・そーとー待たされました。

でも、まだ全部読んでない・・・

虚数 長谷見一雄、沼野充義、西成彦 訳/国書刊行会 文学の冒険 同じく予告からもっと待たされて入手したのがつい最近。で、まだ読んでません・・・
金星応答なし 早川

レムの処女作。

ツングースの隕石は、実は金星からのロケットが起こした事故だったというとっかかりからはいる共産主義パラダイスコンタクト物。

けっこうおもしろい。

ちなみに、細長い最初にでた訳本は元がドイツ語版なのでかなり短くなっちゃってます。

高い城・文学エッセイ 沼野充義、巽孝之、芝田文乃、加藤有子、井上暁子 訳/国書刊行会 スタニスワフ・レム・コレクション
バベル 翻訳ナシ 第2作。レムが、「これは恥ずかしいし、いまの私の思想とちがうので再販不可!」といってとめてるらしい。うう、読んでみたい・・・