労働政策研究・研修機構セクハラ事件 判決
 セクハラ訴訟に勝ちました。
 特殊法人時代に上司からセクハラを受け、本人訴訟で訴えたところ、全面勝訴でした。被告は法人の顧問弁護士が応戦してきましたが、事実は変えられません。
 その後週刊誌に最新セクハラ賠償金相場について書いたところ、女性の方からたくさんの反響があったので、判決文をご紹介します。

事件概要(日経ネットより転載、要約)

 独立行政法人、労働政策研究・研修機構(東京)の部長の男性からセクハラ行為を受けたとして、元職員の女性が50万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、川崎簡裁はセクハラ行為を認定し、男性に請求額通りの支払いを命じた。

 女性は1998年10月ごろ、男性に人事の相談をした後に夕食に誘われ、不倫関係を求められた。その後も約3年間にわたり「不倫しよう」と執ように迫られたた。一方、労働政策研究・研修機構は同日までに部長を戒告処分とし、「労働問題の研究を担っている機関として判決を重く受け止めている」とコメントしている。

判決
平成 16 年 4 月 21 日判決言渡

原告 若林アキ
被告 労働政策研究・研修機構部長X
主文
 1 被告は原告に対し、50万円を支払え。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
 3 この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求 主文と同旨
第2 請求原因の要旨 省略
第3 被告の抗弁等 省略
第4 争点等 被告のセクハラ(セクシュアル・ハラスメント) 行為の有無

第5 理由
 原告・被告が提出した各書証,原告・被告各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨から次のことが認められる。
1@当時原告・被告が勤務していた訴外法人日本労働研究機構(現,独立行政法人労働政策研究・研修機構)は独立行政法人通則法等により組織改正され現法人名になったが,その目的は内外の労働に関する事情及び労働政策についての総合的な調査及び研究等並びにその成果の普及を行う等が定められている。業務範囲の中に,内外の労働に関する事情及び労働政策についての情報及び資料を収集し,及び整理すること等が規定されている。
A原告は平成 3 年 7 月訴外法人に採用された(以下省略)
B被告は平成○年、訴外法人のa課長に就任した。その後B部長に就任した。
2 被告の原告に対する言動について
@平成1O年1O月当時は,原告は経理課に所属し,被告はa課長であった。原告はa課で仕事をしたいという希望があり,人事異動希望等調べにa課を記入して提出した。希望異動先の直接の上司となる被告に異動希望の相談をしたところ,仕事について説明すると言われ夕食に誘われた。原告と被告の 2 人だけで,場所は都内の居酒屋である。そこで被告は自分の性生活や下ネタの話をし始めたので,それ以上の話を避けるため帰る旨告げると被告は話をやめた。店を出て,店のビル前に出たとき,被告は「不倫しようか」と言い,原告にせめよった等のことが認められる。
 被告の行為はアルコールが入っていたとはいえ,希望する異動先の上司としての地位を利用し,性的関係を要求した言葉であり,セクハラ行為に該当する。
(被告はそのような言葉を言ったことがない旨主張し,その旨陳述書及び被告本人尋問でも述べるが措信できない)
A平成1O年1O月以降から平成11年3月までの被告の行為
 被告は原告の直接の上司ではないが,原告は経理部の職員として仕事の関係で他の職場に直接行くことが多くあった。被告の部署にも週1回程度行き ,そこには被告 1 人でいることもあり,2人きりになる機会があった。又喫煙コーナ―(非喫煙者も利用)やエレベーターホールでも 2 人だけになる機会もあった。
 そのように 2 人だけになった時,被告は必ずと言ってよいほど「不倫しょうか」と言ってきた。原告は異動したい希望があるので,被告の態度を受け流していた。その回数は明らかではないが多数回にわたり行われたこと等が認められる。
 被告の一連の行為の日時・場所が十分特定されていないが ,平成11年4月の異動時期までの訴外法人の事務所内で日常的な中で,原告の異動希望を利用して性的関係を要求した行為であり,セクハラ行為に該当する。
 被告は人事権がない旨述べているが ,たしかに被告は発令権者ではないが訴外法人では管理職であり,実質的な権限や影響力を持っており,原告の希望配属先の管理者として大きな発言力を持っていたと認められる。 (被告はこの点についても否認し,そのような言葉を言ったことはなく,一切セクハラ行為をしていない旨述べるが信用できない。)
B平成12年7月から平成13年春までの被告の行為
 原告は希望していたA部a課に配属されず 平成11年4月C部に異動となった。その後被告も異動してきた。平成 11 年 4月から被告の異動までの聞は勤務場所が離れ,被告と直接顔を合わせる機会がほとんどなかったので,セクハラ行為は行われなかった。
 被告の異動後,被告から 2 人きりで台湾料理店の夕食を誘われたが ,前のこともあり断った。
 被告は部下を連れて原告に散歩や昼食に誘うので,同行した。途中他の職員と離れて 2 人になり,会話がとぎれると「不倫しよう」と言ってきた。そのようなことが数回行われた。
 朝の出勤途中 , 勤務が終わり帰宅途中等被告と一緒になることが週 1 回ほどあり,その折りに「不倫しよう」と言ったり、「自分は不倫願望がある」「ダイビングでも始めて,おねーちゃんと不倫したい j などと言い,暗に原告を不倫に誘う言葉を発していたこと等が認められる。
 それらの被告の原告に対する言動は原告の人格権及び性的自由に対する侵害行為であり不法行為を構成する
( 被告は原告を誘って昼食や散歩に行ったことはあるが,原告の言うような言動はしていない旨主張し,その旨証言等をするが措信できない。)

C平成13年初夏の被告の行為
原告は被告に誘われ , 昼休み他の同僚を交え散歩に行った。 当時花が満開の季節で,郵便局近くの路上に来て,他の職員と離れ被告と2人だけになった時,被告は「不倫しよう」と誘ってきた。原告は「私はまだ独身で,これから結婚したいと思っています。不倫なんかしている余裕はないんです」と返事をし,拒否した。すると被告は「分った。じゃあ君が結婚して落ちついたら不倫同士で付き合おう。」と言ってきたこと等が認められる o
 被告は原告が拒否しているにもかかわらず,執劫に性的関係を迫り,被告の人権を無視した言動を行っており , 被告に不法行為が成立する o
 原告の準備書面 、陳述書及び原告本人尋問の証言には信濃性が認められる。
(この点についても,被告は否認し,そのような言葉を一切言っていない旨述べるが,信用できない。)
D原告は被告から不倫しようと言われ,性的いやがらせを受け,それが今後も続き,又結婚しても不倫を迫られるのではないかと思い,気が重くなり仕事に対する意欲を失い,平成13年12月28日訴外法人を退職したことが認められる。
3 以上約 2年9月の聞に行われた被告の言動は,当初においては直接の上司としての地位を利用したものではないが,希望異動先の上司としての地位を利用し希望条件がかなうためには性的関係を行うことが条件であると思わせ,不倫を強要している。被告は人事権がない旨述べているが,職場の管理者であり , 現場の責任者で実質的な権限及び決定権を有しており,その権限を利用して不倫関係を迫り,誘っていることが認められる。
 異動先では職場での上下関係はないが,管理職として実質的に大きな権限を付与され,事務所内で被告は大きな影響力を持つようになった。被告はその権限を濫用して以前原告にしたと同じ行為を繰り返し行っており,何ら反省の態度がみられない。
 訴外法人は内外の労働問題等を研究し,外部に提言等を行い,社会に役立たせるという重要な役目を担っている。訴外法人内部においてもセクシュアル・ハラスメントの防止等に関する要綱(甲第11号証)を定め、セクハラ行為の防止についてほ管理者の責務としている。特に被告は政府系機関の法人で労働問題を担当しており公的地位にある者である。一般社会に対し,社会問題化しているセクハラ防止等について立案・提言などに努めなければならない社会的使命を担っているのに,その使命を忘れ,原告に対し,長期間執劫に不倫関係を迫り続けており,その違法性は強い。そのことにより原告を訴外法人を退職に至らしめた責任は大きいものがある。
 被告は原告に対し,直接身体等に触るなどの性的な直接行動に出ていないが,被告の一連の言動は職場環境や自己の優越的な地位を利用して原告の人格権や性的自由を違法に侵害しており,セクハラ行為に該当し, 各行為に不法行為が成立し,原告が精神的苦痛を受けたことが認められる。
 なお,セクハラの定義として「相手の意に反した,性的な性質の言動を行い,それに対する対応によって仕事をする上で一定の不利益を与えたり,又はそれを繰り返すことによって就業環境を著しく悪化させること」と解されているが,被告の各行為はその要件を充たしていると判断する o
4 被告の消滅時効の予備的主張について
 被告は仮に認められた場合,本件の慰謝料請求権は時効が完成しており請求できない旨述べるので検討する。
 本件は被告の違法な継続的なセクハラ行為であり,それぞれの行為について不法行為が成立すると考えられるが,継続的にセクハラ行為が続いており,原告の精神的苦痛は一つ一つの行為を切り離して判断するのは不適当なので,損害の性質・種類及び加害行為の態様を総合的に考慮して判断すべきものと考えるので,本件においてはすべてを一体として評価するのが相当と解する。
 原告は平成 15 年 9月17日本件を提訴しているので,平成1O年1O月及び、平成11年3月までの行為については消滅時効にかかっているようにみえるが,その後も連続的に続いており,平成13年夏まで行われているので時効は完成していないと判断する。
5 原告は被告の各セクハラ行為によって著しい精神的な苦痛を受け,1O 年以上勤めた訴外法人を退職せざるをえない状態に追い込まれた点を考慮すると ,精神的苦痛に対する慰謝料の額は原告請求額を超えるものと考えられるが,原告は5O万円しか請求していないので,慰謝料の額は原告が請求する5O万円が相当と判断する o
6 以上のとおり,原告の請求は理由があるので認容し,主文のとおり判決する。

川崎簡易裁判所 永井道雄裁判官 

 この後、被告は控訴し、7月16日、横浜地方裁判所で控訴審が始まりました。
 被告側弁護士3名は法人の顧問弁護士です。弁護士費用は公金から賄われているのかと被告弁護士に尋ねると、「お答えできません」と言われました。