このお話は、『Not Found』 のぷるっ様から頂きました(^^)






幼馴染と言う言葉ほど、便利なものは無いと思う。

世の中の一般論的にはどうだか知らないが(私には関係ないし)、
少なくとも私と乾貞治の関係についてはまさにその代表格だと言えよう。

こう得々と述べている今も。



「――――…協力してくれないか、俺とお前は幼馴染だろう?」
「…んっ…誰、がっ…!」
「俺にはお前が必要なんだ。
「……っ…」
「さぁ、良い子だから、俺の言う事を……」


「誰が、スーパーDXグレートデリシャス乾汁なんて飲むかーーーーッ!!



私は彼にとって、『幼馴染』と言う名の『実験体』なのだ。
彼にとって幼馴染なんて所詮、聞こえの良い実験用ラットにしか過ぎない。












幼 馴 染 W A R S













何時頃からかは記憶に定かではないが。
幼馴染であるこの男貞治は、変な液体を作ることに固執していた。
最初は真剣に「身体に良い物を」と栄養価を考え調理していた筈なのに。
きっとアレだ。
青学に通いだしてから可笑しくなったんだ。きっとそうだ。
栄養は高くとも味の方はサッパリなその代物を、
飲み物ではなく罰ゲームとして使用され始めてから、その目的が微妙にずれて来たような気が…。
同じ部活の不二君があのどうしようもない物体を「意外とイケるね」なんてのたまったから、
貞治は「あれ以上のものを!」と使命感に燃え始めたように思う。
どうせなら違うベクトルに燃えて欲しかった、と一人呟いてみる。

そんな私の思いも空しく、今日もまた何時もの如く新作の味見に迫られていた。



「大丈夫だ、痛くなんかない。ほら、良い子にしていれば直ぐに終わるから…」
「気持ち悪い言い方すなッ!頼まれても汁なんて飲まないっ。それにこれから用事が…」
「ほう。俺の手作り乾汁より大事な用、とは?」
「……アンタの汁に比べたら何だって大事な用よ。(ぼそっ)」



あんまり御無体でムカツクからそんな憎まれ口を叩いて見せるけど、
貞治は気にも留めてないのか(留めてよ!)また「で、用とは?」と繰り返した。
な、なんか黒い渦が貞治の後ろに渦巻いて見えるのは気のせいかしら…?
逃げたくなるが長年の付き合いで、こういう時の貞治には逆らわない方が良いと本能が告げている。
こわばる顔の筋肉を総動員して笑顔を作って見せながら、「えっとぉ」と繋いだ。



「遊びに行こうってずっと約束してて、そのままになってたから…」
「誰と?」
「ちょうど観たかった映画のチケットを貰ったらしくて、折角だからって、」
「… だ ・ れ ・ と ?」
「(ひぃぃぃっ…!) …蓮二……で、す……」



ゴォォォォォォォ。


その瞬間、部屋の温度が一気にマイナス表示になる。

だけど私が本当に凍りつくのは、その後暫くしての事だった。
















「――…成る程。それで貞治も一緒に来たと言うわけか」
「ご、ごめんね?『貞治には内緒』って約束してたのに…」
「俺に隠し事など100年早いな」



蓮二との待ち合わせ場所の映画館前で、腕を組み対峙する幼馴染達。
蓮二は幼い頃引っ越してしまったけれど、其れまではいつも三人で仲良く遊ぶ
近所でも有名な幼馴染三人組だった。
何時もは面倒だと言い張る私を脅迫してまで練習試合の応援観戦へ呼ぶくせに、
何故か「今度の試合は観に来ないで良い」と言われた立海大戦。
未だに貞治は私の性格を把握していないらしい。
そんな風に言われて、私が行かないわけが無いじゃないか。

そしてこっそり覗きに行った試合会場で、久々の幼馴染対面となったのだ。

結局隠密で観ていた筈があっさりと貞治に見つかってしまい、邪魔だと退場を宣告され。
半ば引き摺られながら、驚く蓮二の掌へ携帯番号を書いた紙を手渡して、
それ以後ちょくちょくと連絡を取り合ってきた。
何故だか貞治は私がもう一人の幼馴染と仲良くするのがどうも気に喰わないらしい。
一度電話でその事を蓮二へ告げると、怒るか呆れるか想像していたのに反して、
案外アッサリとした口調で「だろうな。」と言った。
その後「俺も人の事は言えんからな」と小さく笑う。…どういう意味?

そして今、そんな二人に挟まれ身を縮こまらせる私を、
通りすがりの周囲の人達が哀れむような視線で見つめている。
普通幼馴染の再会といえばもっと穏やかで暖かくて、胸がきゅんとする物じゃないだろうか。
なんなんだこの寒気は。
マイナス30度の世界か。バナナで釘が打てるのか。
無言で視線を交わす幼馴染ズに居たたまれなく思いながらも、
そっと腕時計で時間を確認する。



「あ、あの、蓮二?」
「…ん?どうした」



蓮二は穏やかな声で私へと問い返す。
蓮二は何時も私に優しい。
普段は余り表情を出さないけど、私が声かけると柔らかい笑みを頬に浮かべて振り返ってくれる。
そのたびにホッとしたような、其れでいて胸にときんと小さな衝撃が走る。

けど、その後が酷い。……というか、恐ろしい。



「どうした?
「もう直ぐ映画の上映時間が…」
「ああ、そうだな。悪いが貞治、俺達は時間だからそろそろ行かせて貰う」



微笑を浮かべ貞治に告げる蓮二。
だがその笑みは私に向けるものとは違い、何というか…独特のものを感じさせる。



「……。“悪い”と言いつつ、余りそんな風には聞こえんが?」
「フッ、データも良いが勘繰り過ぎるのもどうかと思うぞ」
「俺も常々この映画を観たいと思っていたんだ。だから入らせて貰う」
「ほう、お前がラブストーリーをね。珍しい事だ」
「其れはお前もじゃないのか?蓮二。
 俺には事前にお前が『誰かさん』の好みを収集して計画していたとしか思えんがな」
「………。」
「………。」




ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウ。




この寒々しい空気を救ってくれる救世主がいるならば、何でも言う事を聞きます、神様!
天を仰げどそんなに都合よく現れるはずも無く、冷たい空気だけが身に纏う。


普段の貞治は汁の実験体にするだけ世間一般の『優しい人』とはちょっと違うものの、
でも根は結構良いヤツだったりして、それなりには気に入ってる。
じゃなかったら幾ら幼馴染でも実験されて仲良くなんてしない。
器用なのに不器用で、頭が良いのにちょっと抜けてて、酷い事をするのに優しくて。
何時もは余裕の笑みで私をからかうのに、たまーに見せる照れた素の顔がちょっと可愛かったりして、
汁の被害も忘れてあげようかなぁって気にもなる。
(でもそんな気になるだけで、実際に忘れたことは一度たりともない)

けど、何故か蓮二が絡むと貞治は豹変する。
他の人間とだと何も言わないのに、どうしてだか相手が蓮二だと不機嫌極まりない。
それは蓮二も言えた事で、表面では変わらないように見えるものの、
蓮二から流れ出すオーラはどう見積もっても通常の三倍の黒さを放出しているように見える。
でも私から見れば、蓮二と貞治って根本的な所で似てる気がするんだけど…。
…なんて言ったら最後、両方に絞め殺されそうで怖い。



「俺達は指定席だから、そろそろ席を捜しに行こうか」



ぽんと、肩に暖かい何かを感じて其処を見る。
蓮二の掌だった。
細身の蓮二からは想像できないけど、近くで見ると意外に大きい。
やっぱりテニスプレーヤーだからかなぁ…と呑気に思っていたら、
途轍もない殺気に当てられ恐る恐るその人を見た。

貞治、怖いんですけど……ッ!? (眼鏡が逆光で光ってるよ…!)

パシンと勢い良く蓮二の手を払って、蓮二の眉が僅かに潜められる。



「蓮二、お前が言う『映画に来た理由』が本当なら、上映中彼女に何もしないと言う事だな」
「…何も、とは何のことだか」
「俺は後ろから隈なくチェックさせて貰う。もし何かあれば無事には帰れないと思え」
「お前こそこの『映画が観たかった』んじゃ無いのか?両方見ることなど不可能だと思うが?」
「………。」
「………。」



何度同じ事を繰り返すんだ、お前等はッ!!
もう上映が始まるのに!
後の仕返し(?)が怖くて口には出せないものの、楽しみにしていた映画なだけに焦りも募る。
もういい加減見捨てて一人入ろうかと思っていたら、
私の気持ちを察したのか蓮二が「じゃあ、行こう」と言った。

やった!やっと観られる…!
ウキウキ気分で映画館内へ向かう私と蓮二。
当日券を購入するため窓口へ足を向ける貞治に、上映会場の重い扉を開けた蓮二が振り返る。




「そうだ貞治、言うのを忘れていたが。」
「…なんだ?」
「この映画は人気があるらしくてな。どうやら前売り券で即売らしい」
「……っ…!」
「と、この券を譲ってくれた人間が言っていたよ。すまないな」
「…其れも全て計画通りか」
「フッ、何のことだか」



蓮二の笑みを見て、どんどんと貞治の顔が強張っていく。
………マズイ、非常に、マズイ。
だが蓮二は其れに気付いているのかいないのか、言葉を留めようとはせず。



「其れと一言忠告しておいてやろう」



ポンとまた、私の肩へ掌を乗せて。



「分かりにくい愛情は時に誤解を生む。何時か嫌われるぞ。女性は大切にしないといけないな」
「………。」
「お前もたまにはこういう恋愛映画で勉強してみるのも良いかも知れん」



そう言って微動だにせず私達を見つめる貞治を残して館内へと入っていく。
既に上映前の宣伝が始まっている中は暗くて、蓮二が「掴まると良い」と手を差し出した。
その手を取りながら外の貞治を思う。

…怖い。怖い。限りなく、後で会うのが怖い。
あの調子じゃきっと上映が終わるまで待っているだろう。
出た後で一体何をされるのか。
もとい、何を『飲まされ』るのか。

……考えるだけで、怖い。




「席は此処だな。…どうした、?」
「どうしたも何も…。さっきの貞治の顔、滅茶苦茶怒ってたよ!?」
「ああ、そうだな」
「そうだな、って……もう。蓮二は貞治には容赦ないんだから」



そう言う私に一瞬表情を留めて、そして今度はゆっくりと笑う。



「『貞治』に容赦が無いのではなく、『お前が絡む』とお互い容赦が無いんだがな」
「……?」
「俺が引っ越してから後、何度もお前に連絡を取ろうとしたのを知っているか?」
「え?蓮二が?嘘、そんなの全然知らなかったよ」
「だろうな。ことごとく阻止されてきたからな」
「阻止??」



スクリーンのカーテンがほんの少し狭まって、天井の照明はいっそう暗いトーンになる。
少しづつ消えていくざわめきと、照明と共に。



「数年来のお返しだ、これくらいは構わないだろう?其れに…」
「其れに?」
「心配しなくとも、上映後の貞治はお前に当たったりはしない」
「え、本当!?」



思わず大きく出てしまった声に、周囲の人が睨みつける。
…しまった、もうオープニングテロップが始まっている。
しゅんとして小さくなる私の耳元へ、蓮二が顔を寄せる。



「さっき散々『優しくしろ』と牽制しておいたからな。あいつの変わりようを見るのが楽しみだ。ふふ」
「………はは…は……」



やっぱり似たもの同士だと、増してゆく暗闇の中で、そう思った。













その後。

人の流れに乗ってぞろぞろと出てきた私達を、案の定仁王立ちで貞治は待っていた。
だが蓮二の予想通り何時もの貞治よりは何だか……少し優しくて、
隠すようにして笑う私を見て貞治が怪訝そうに見返した。

こういう貞治は、何かちょっと…良いな、なんて思ったりして。
…んだけど。


嬉しそうな私の様子を見ていた蓮二がポツリと「ふむ…敵に塩を送りすぎたか」と呟いて、
何か貞治へ耳打ちをすると、貞治の顔が一瞬で蒼白になり。


結局帰ったら乾汁改良版とやらを飲まされて、
もう絶対この二人とは映画に行かない!と誓ったのは言うまでも無い。






The End.
2005.08.28.




素材提供 新宿写録









漫画やら何やら、いろいろ話が合う事が多いぷるっち(^^)
オフでささやかなプレゼントを贈ったお返しに、と、こんな素敵な乾夢を頂いてしまいました〜♪(〃∇〃)

「乾の幼馴染のヒロイン」で、とリクエストしたらば
――それはつまり、柳とも幼馴染という非常に美味しいシチュエーションだったのですね〜(〃∇〃)ふふふ
ワタクシ的には、キモカッコイイ乾の台詞の数々が非常にツボでございました!!
あとね、バナナで釘とか!!(爆笑)

ホントはもうずっと前に頂いていたのですが、ずーっとマイPCに大切にしまいこんでありました
皆さま、もったいぶってごめんなさい(^▽^;A
そして、ぷるっち、ナイスな乾(&柳)夢をありがとうございました〜!!