2001.3.4UP

桐野夏生

 〜ワタシがミステリー小説を読むきっかけになった作家〜

1 顔に降りかかる雨(1993)  6 光源(2000)
2 OUT(1997)  7 ジオラマ(1998)
3 錆びる心(1997)  8 ファイアボール・ブルース(1995)
4 柔らかな頬(1999)  9 グロテスク(週刊文春で連載中)
5 天使に見捨てられた夜(1994)

読んだ順。カッコ内は、作品発表の年です。

顔に降りかかる雨


ハードボイルドや推理小説は、登場人物が多くて人間関係がややこしそう・・・という先入観から避けていたのですが、ふとしたきっかけで手にしたのが、桐野夏生の「顔に降りかかる雨」でした。そのきっかけとは「美人作家が挑むハードボイルド小説」とか、そういう類の宣伝文句だったかもしれません。探偵を生業としている主人公ミロ。その友人がある日、大金とともに姿を消してしまう・・・。死体愛好家、ボディピアス、ネオナチといった、なかなか重たい題材が盛り込まれているのに、物語の展開は鮮やかで、読み終えたあと、「え?うそでしょう??」と、またはじめから読みたくなるような、そんな結末。ワタシ的には、この物語に出てくる成瀬役は、美木良介しかいない!のですが、2時間ドラマ化されたときは、ぜんぜんイメージの違う役者さんでがっかりしました。

 

OUT


顔に降りかかる雨が面白かったので読もうと思って手に取ったのですが、あまりの厚さに1度は断念。「やっぱりワタシはミステリーは読めない!」と思ったのですが、「1998年版このミステリーがすごい!!」堂々第1位に輝き、暮れの本屋で平積みになっていたので、つい手にしました。気分は「正月中に読み終わればいいや。」ところが・・・!です。高村薫も宮部みゆきも、読みかけのまま放ってあるのに、桐野夏生の本は、なんでこんなにすぐに読んでしまうんだろう。ストーリー展開の面白さや題材のユニークさよりも、登場人物の誰かにシンクロして惹き込まれてしまう、心理描写にはまってしまいます。(ヤクザ映画を見終わった後、肩で風切って映画館をでてくる兄さんと基本は同じです。)主人公の雅子が、なんで夜勤パート仲間が殺した夫をバラバラにしようと思い立ったのか。雅子のダンナさんは自室に篭って出てこないし息子は自分とほとんど口をきいてくれない。そんなバラバラ家族なのに食事だけは必ず家でとる彼ら。彼らの食事の時間を気にしていつのまにか自由時間も自己規制してしまっている雅子のやるせなさ。読んでる最中、佐竹の役は絶対白龍だね!安娜はビビアン・スーだわ。と思っていたのですが、・・・・ドラマ化された話を透明な気持ちで観るのはなかなか難しいモンです。

 

錆びる心


桐野作品をもっと読みたい!と思って手にした本。しかし、短編集のため、踏み込んだ心理描写よりも着想の面白さに重きがおかれるためか、ワタシにはいまいち、でした。読んですぐ、BOOK 0FFに出してしまった唯一の桐野作品。(それくらい「OUT」が面白かったんですねー。)

 

柔らかな頬


待ちに待った長編。直木賞をとりました。賞をとったあと、ニュースステーションに出演されましたが、授賞式(番組で流れた)に着ていた服と同じ服での出演に、ご本人も「あちゃー。」という表情。久米さんもなんだか意地悪な質問ばかり。子どもってかわいいと思う反面、疎ましく思う瞬間があって、そこのところがとてもよくわかる。女性はお腹に子どもを宿したあとは後悔の連続である、ということを何かで読んだことがあって、その後悔とどう折り合うかが女の人生観なのだとも。(「しまった、妊娠してしまった」からはじまって、それを受け入れるころ妊娠にかかわるトラブル発生「あのとき無理をしなければ」、産まれた子を見て「妊娠中にもっと胎教に気を使っていれば」、成長した子を見て「もっと手をかけてあげていれば・・。」とかなんとか。)後悔先に立たずというけれど、たいていは、それほど深刻な後悔ではないのですが、次女有香を失った母カスミの後悔は、まるでブラックホールのように果てがない。それが読むほどに心に痛い。有香がいなくなる瞬間の描写が、この人が犯人だったら、と、いくつかのパターンで示されているようにもとれる話の展開は、これまでにない物語の進みかたで面白く読めました。あなたは、誰が犯人であってほしいですか。

 

天使に見捨てられた夜


探偵ミロのシリーズの2弾。第1弾が、あまりにも濃厚だったので、ちょっと物足りないかも。失踪したAV女優を探すうちに・・・。

 

光源


「あんたら、ふた言目には『いい映画』っていうけどさ。俺は映画の奴隷じゃねえよ。」と帯にあるように、プロデューサー、監督、助監督、カメラマン、役者・・・映画製作にかかわって、それぞれの立場で私利私欲がうごめく様子をまざまざと描写しています。なかなか手に入らなかったので読むのを楽しみにしていたのですが、イマイチだったのは、なんでだろう?肩入れできる登場人物がいなかったか?どんでん返しが井上佐和じゃなくて、なんであの人なの?この帯のセリフも、そう思って読んでみると、とっても意味深長です。「桐野夏生はもうミステリーを書かないのか?」といろんな書評で書かれた作品です。ほんとに、もうミステリーは書かないのだろうか?

 

ジオラマ


短編集。とはいえ「捩れた天国」は深い。ドイツ人の父と日本人の母を持つカールは、現在ドイツでツアーコンダクタをしながら暮らしている。ある日、日本人の観光客のツアコンを紹介されるのだが・・・。そこはかと漂うカールの厭世観。最後の1行、かなり効きます。ほかの作品もいろんな手法を試していて、先の短編集「錆びる心」よりもワタシは好きです。

 

ファイアボール・ブルース


女子プロレスを舞台にしたミステリー。火渡が「対戦したあとは必ず思策に入る」くだりは、その道のプロ、という状況をうまく表現していてうまいなーと思う。なぜ火渡がこの事件にこれほどまでに肩入れしたのか。ミステリーのしかけじたいは、あまり目新しくはないのですが、女子プロをとりまく人間模様がとても面白く読めました。あとがきからも感じられるのだけれど、作家桐野夏生という人は、今のこの世の中で「女性であること」そのことに苛立ているのかもしれない。それは世の中の制度の問題かもしれないし個人の意識の問題かもしれない。個であること以前に制度的な女性として括られ、あまりにも無意識にそして無邪気に女性であることを理由に強制されたり取り上げられたりしていることについて、わかりやすい問いを立てようとしているのかもしれない。・・・・なーんてね、めんどう臭そうに書いちゃったけど。桐野夏生が描く女性たちが、あまりにもストイックで、かつ、女臭くないので、その辺のところに作家として何かこだわりがあるような気がしてならないのです。

グロテスク


ステレオタイプな女性像を描こうとしている野心作。きっと、何か仕掛けがあるに違いない。

 

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