【Si結晶からのフォトルミネッセンス発光ピークの解釈】

以下にイメージ図を示します。ただし、現段階の私の理解が十分でない可能性もあります。
また、細かい数字が論文によって微妙に異なることもありますので、十分ご注意ください。

*******************************************

熱による格子振動の影響を抑えるため、フォトルミネッセンス測定は通常、100K以下の低温下で行われます。

Si結晶は間接遷移型のバンド構造を持っているために、低温下でのバンドギャップに相当する1.17eVの発光は
観測されませんが、そのかわりに、Free Exciton (
FE) やBound Exciton (BE) が、Phonon を同時放出すること
による遷移により
、再結合・発光する現象が起こります。
従って、発光エネルギーは放出するフォノンエネルギーを差し引いた残りのエネルギーに相当すると考えられます。

通常、バンドギャップ、FEやBE、フォノンの各エネルギー値がわかれば、それらの差引で再結合過程を説明できるようです。

Exciton : 励起子。互いのクーロン力により束縛し合う自由電子とホールのペア。
       伝導帯のやや低エネルギー側に束縛準位を形成する。

Phonon : フォノン。量子化された格子振動。
       ここでは、Transverse Acoustic (
TA) と Transverse Optical (TO) の2種類の
       格子振動モードが関わっている。
       特に、
Γ点における TO フォノンのことを OΓと表示しました。

 

 

その他、フォノン放出を伴わずに発光するケースとして、結晶格子の乱れや変調周期構造に
起因する発光が観測される場合があります。不純物が作る準位やSiGe混晶量子井戸からの
発光現象について報告されていますが、混晶中での不純物や、非周期的原子配列、
界面での散乱、量子閉じこめによる励起子の束縛などが関わっているものと考えられます。

ただし、上記のような議論は発光性(Radiative)の遷移に限られます。実際には、
Si中での励起子の再結合のほとんどは非発光性の遷移であり、そのエネルギーは
格子振動(熱エネルギー)に変換されていると考えられています。

従って、上記のような発光過程について、さらに詳細な議論を行うためには、結晶欠陥に
起因する非発光性再結合中心を十分減らした良質な結晶を成長させる技術が不可欠で
あると思われます。

*******************************************

【参考文献】

(1) "New Radiative Recombination Processes Involving Neutral Donors and Acceptors in Silicon and Germanium"
   P. J. Dean, J. R. Haynes and W. F. Flood, Phys. Rev. 161 (1967) 711.

      不純物ドープSi(Ge)結晶からのフォトルミネッセンス発光ピークと、フォノンや不純物準位が関係した
      再結合・発光過程を関連づけている。

(2) "Near-Band-Gap Photoluminescence of Si-Ge Alloys"
   J. Weber and M. I. Alonso, Phys. Rev. B 40 (1989) 5683.

      SiGe混晶のGe組成比に対する、TOフォノン、TAフォノンの各エネルギー値の依存性を系統的に
      明らかにしている。

(3) "Well-Resolved Band -Edge Photoluminescence of Excitons Confined in Strained Si1-xGex Quantum Wells"
   J. C. Sturm, H. Manoharan, L. C. Lenchyshyn, M. L. W. Thewalt, N. L. Rowell, J.-P. Noel and D. C. Houghton,
   Phys. Rev. Lett. 66 (1991) 1362.

      歪みSiGe/Si超格子構造中の量子井戸に閉じこめられたFE及びBEからの明瞭な発光を観測している。

(4) "Band Alignment in Si1-yCy/Si(001) and Si1-xGex/Si1-yCy/Si(001) Quantum Wells by Photoluminescence
   under Applied [100]and [110] Uniaxial Stress"
   D. C. Houghton, G. C. Aers, N. L. Rowell, K. Brunner, W. Winter and K. Eberl, Phys. Rev. Lett. 78 (1997) 2441.

      ウェハを機械的に曲げることにより圧縮/引張り応力を加えた状況下で、Si/SiGe/SiC量子井戸構造の
      バンド構造が変化する様子を観測している。

*******************************************