町田クライシス
トシは町田の駅前で第八機動部隊を見かけた。
始めは一人二人だったが見る間に増えてたちまち一個小隊程度の規模になり、なお増え続けていた。
街を歩く人たちはまだ誰も彼らの存在に気付いてはいなかった。
「みんナ、早く逃げロ!」
トシは他人の中で一人目立つのは絶対に嫌だというタイプだったがこの場に限ってはそんな事も言っていられない。
「みんナ、早く逃げロ!第八機動部隊ダ!」
しかしいくらトシが派手に走り回りわめきちらそうと、街の人たちは一向に気付く気配がなかった。
まるでトシなど街の中に初めから存在していなかったかのような無反応だ。
「みんナー!早く逃げロぉー!逃げるんダょー!」
トシは涙と鼻水とヨダレとタンでベトベトになりながら叫び続ける。
第八機動部隊は時計前の広場に集まり、整列を始めた。隊員は既に五万人を超えている。
街は相変わらず不気味なくらい静かだった。普段と変わらぬ生活を淡々と続けていた。
その中をトシの声だけが空しく響いている。
「逃げロぉーおーおーお・・・」
やがて第八機動部隊は壮絶な全滅を始めた。
十万人を超えなお増え続ける隊員同士が手に手に持った最新の殺戮兵器で互いを撃ち合う。ダイナマイ
トが炸裂しナパームの火柱が上がる。血しぶきと肉塊で街を真っ赤に埋めながら、部隊はものすごい
勢いで全滅していく。隊員はどこからともなく現れては次から次と加わり、加わっては撃ち合ってそ
の全滅の規模を広げていった。
第八機動部隊の全滅が続く中、街の人々は人形のように歩き続ける。その中にトシの姿は見えない。
トシの声はさっきとっくに絶え間のない銃声と爆音の中にかき消された。
トシの行方は、誰も知らない。
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