読んだ事のある小川未明の作品です。タイトル亡失のものは(失) 正確さに欠けるものはものは(?)と表記しました。
赤いろうそくと人魚 人間の華やかさ、やさしさに憧れる人魚が、人間なら娘を幸せにしてくれるであろうと、娘を人間の町に産み落とします。 娘はろうそく屋の老夫婦に大切に育てられ、娘はろうそくに赤い絵の具で絵を描いてお手伝いをします。 ところが老夫婦は謎の商人の話に目がくらみ、大金と引き換えに娘を売り飛ばします。娘は絵が未完成で真っ赤に塗られたろうそくを残して連れ去られます。 ある夜、髪の濡れた女が来て娘が残した赤いろうそくを買っていきます。その晩嵐が起こりたくさんの 赤いろうそくが町のお宮にともると嵐が来るようになり、その町はほろんでしまいました。 この作品は復讐劇のように言われ、実際その面もあるのですが、そうなるのも小川未明の特色で 私は勝手に「振り向いて欲しい」と名付けます。人魚の人間に対する憧憬に、娘の健気な気持ちに、気づいて欲しい、 他作品の登場人物の寂しさ、正直さ、貧困に耐えていること気持ちに向き合って欲しい、 そういった「振り向いて欲しい」の気持ちが、復讐をおこしたり、亡くなったはずの人が現れたりする、という特色です。
牛女 話さないが大柄でよく働く女がいました。女には一人息子がいてたいへんかわいがっていましたが、病気にかかり、 身寄りがなくなる子を案じて病死します。その後息子がよく見る山に牛女らしきものが見え、人々は牛女が見つめているのだ。と噂します。 息子は奉公で町をでました。息子が町から姿を消してしばらくして、夜中町を歩いてまわる牛女をみたものがありました。 息子を探しているのだ、とまた人びとは噂しました。 息子は出世して戻ってきます。町にりんごを植えて栽培しようとしますが、虫のせいで毎年落ちてしまいます。 息子は町の人から何か思い当たる節はないか聞かれると、町を出たとき母に挨拶しなかったことに気がつきます。 息子は母の供養を熱心にします。翌年からこうもりの群れが来て虫を追い払います。あのこうもりもまた、牛女が姿を変えて息子を護りにきたのだと噂しあいました。
電信柱と男 夜中に散歩する電信柱と散歩する男がいます 電信柱は「私は大きいから今の時間帯しか散歩できない」と言います。 男は「私は人間が嫌いで、誰にも会わない時間に散歩をしている」と言います。 男はともに散歩しようと言い、途中で電信柱は戯れに男を屋根の上におろします。男は降りようとしますが、電信柱の上部は危険なため、捕まって降りることができません。 翌朝男は屋根の上で発見され、電信柱はとんでもない場所に立っていました。
眠い町 眠くなる町があると聞き、勇んである少年は町を訪れますが、やはり眠りにつきます。 起こされます。誰が起こしたのかとみると老人でした。 老人は「私はこの町にもとからいたのだ」と言い、「ここは自然にあふれていたが、 この町にも電信や鉄道や工場ができるようになった。 電信や鉄道のおかげで人が疲労を知らなくなったら人はますます働き やがて自然はなくなり地球は砂漠となってしまう」この砂を浴びれば 皆疲れ眠くなる。砂をまいてきてくれ。 少年は砂をまいて皆を休ませているうち、砂を使い切ってしまいました。 この町へ戻ったらおまえをこの町の王子にしてやる、と言う言葉を思い出し 眠い町へ戻ると工場たくさんできていて、少年は途方に暮れました ここにあるのは文明批判ともとれ、日本は工業化と公害の問題に長く対面していたことがわかります。 工業化と工業化による人間性の変化を寓話的に書いているのも小川未明の特色です
黒い旗物語 南の国から北の国に行く貧しいおじいさんと子供がいます。 子供は豊かな南の方から来ました。ここよりさらに北の国に行きたいのですが食べ物を分けてください、、 と言いますが、気を悪くした町の人は罵声を浴びせて追い払います。 おじいさんも子供も空腹で浜に座っていましたが、胡弓を残して行方がわからなくなりました。 海鳴りの大きな日に黒い旗をかかげた赤い船が到着します。 子供は金や珊瑚で物を買おうとしますが、町の人は受け入れません。 その夜火事が出て町は滅んでしまいました キーとなるものを介して日常と異界を分けるのがエブリディマジックですが、外国の作品が異世界に飛び込むのに対し、 未明の場合はこの船のように異界からやってきます。(他に「黒いそりと赤い人」「牛女」)特徴はやってくる条件は怨念や寂しさといったものです。 また、この北の海の描写 「空の色は一面に鉛色に重く、暗く、にごっていて、地平線に墨をたらしたようにものすごく見えます。風は叫び声をあげて頭の上を鋭く過ぎていました。名も知らぬ海鳥が悲しく鳴いて中空に乱れて飛んでいました。」 は、視覚からは暗い絵画のようで、聴覚からは鳥や風のすさまじい音でまるで地獄の描写です。 このような、情景描写が老人と少年の貧困と絶望をいっそう際だたせています
小さい針の音 若い教員は子供を熱心に教えていましたが、やがて別の仕事に就きます。 教員は子供達から餞別に時計をもらいました。教員はその時計を大切にしていましたが 買い替える際に手放します。教員は出世を重ねて重役となり時計も何度も買い替え 高級な時計を買えるようになりました。 ある日自分の時計を自慢しながら部下の時計を尋ねますと、一人の部下が誇らしげに 受け答えします。狂いがないという不恰好なその時計は、あの時子供達からもらった時計でした 重役となった、かつての教員はその時計を自分の高級時計と替えてもらいます。 重役はかつて子供と接したときを回想します。「君は将来どんな人になりますか?」「いい人になりたいです」 「いい人とはどんな人ですか?」「世の中のために働く人です」… 私は世の中のために働いてきたのだろうか?重役は自問自答しました。
(失) 少年が釣った魚を飼おうとしますが、魚は一晩で死んでしまいます。 少年は魚を哀れんで川に返します
おつきさまと金魚 子供達が金魚の一人の子は「金魚はおどろいているのだ」と言い もう一人は「金魚はよろこんでいるのだ」と言います。 夜になり金魚はお月様に「ああ驚きました」というと お月様はあたたかく笑みをかえします 批評のところでも書いていますが、批評では小川未明は子供の視点が欠けていると言われていますが、この作品は子供の視点に立って作ったものと思われます。小川未明が子供の視点にたって書く場合、子供が出来心で痛めつけ、それを悔悟する、といったものがいくつかあります
風の子とおひなさま 北風の子はさびしいといいつつさまよっています。やがて暖かそうな家をみつけます。 家の中ではおひなさまなどひなまつりの様子ですが北風がのぞうこうとすると 窓は閉じられ、また寂しく旅立ちます
赤い船 女の子はフルートやオルガンに憧れ、楽器のある外国にあこがれます 港に着いた赤い船が外国から来たことを知り、赤い船にあこがれます 赤い船が出港した後、つばめに赤い船を尋ねると、つばめは「沖に船があり音楽を奏でていた」と 小川未明は外国(近所でなく彼方の地)や音楽を憧憬の対象にすることが多く、そのことは以後の作品にも続きます
海の少年 主人公は空色の服を着た少年に会います。次にあったとき少年は宝石をくれます。 主人公の親は返すように言い、主人公は返すついでに素性をたずねると、海にも都があり宝石やイルミネーションにあふれていると言います。 ぜひ連れて行ってほしい、といいますが、行くことはありませんでした。 小川未明は色にもこだわります。海底都市というのは西洋作品の影響かと思います
天使(てんにん)の御殿 女の子が庭の蝶にどこから来たのか尋ねると、西の国から来て、西の国は天使がたくさんいて美しいところといいます。女の子も蝶にしてもらって西の国に行くと、蝶が実は死んだお姉さんだったとわかります。 お姉さんは親が心配するから、といい蝶の姿で庭に戻ります。 死んだ人が ひょっこり出てくる作品はほかにもあり、その辺りも小川未明の作品がこわい理由となっているように思えます
月の世界から 貧しい少年は同じく貧しい少年と深い友情を結びますが、友人は死んでしまいます。 主人公が引っ越した先は金持ちの少年の側でしたが、彼は沢山のおもちゃをほとんど貸さないし、貸してもすぐに返すように言います。 星空の見える天井の隙間からかつての親友が顔を見せますが、生気のなくなってしまったその顔を見てますます悲しみが募ります。 金持ちと貧しい人の対比も多く出てきます。この作品も死んだはずの人がひょっこり出てきます
青い時計台 いい音色が聞こえてくると思ったら、時計台からで色とりどりの宝石に幸せそうな家族が過ごしていました。ある日悲しい音色だと思ったらそこの父親が病床に臥しているところでした。 また楽しい音色に戻りました。あの家族はどうしていつも楽しく過ごしているのだろうと思っていると、音色が聞こえなくなり、時計台に行ってみると売家になってました。 上にひきつづきお金持ちの人の話です。「金銀青紫の宝石…」に時計台、と西洋風のものに非日常を託しているように思います。
無くなった人形 女の子の主人公は大切な人形で遊んでいます。それを貧しい格好の女の子が見ています、人形は女の子がちょっと他に行っている間に無くなります。女の子はそのとき見ていた貧しい格好の女の子が盗んだのではないかと思います。 女の子は夢を見ます。傷んだ家の中で貧しい女の子が人形を抱きしめている夢です。女の子は学校で先生にその話をします。 先生は話を聞いて「捕らえますか?堪忍しますか?」と尋ねます。女の子は「堪忍します」と答えました。 主人公の隙に貧しい子が人形を手にするのですが、抱きしめてキスをして、と人形を本当にいとおしく扱う場面があります。また、未明は主人公のように潔く素直な(未明は正しいという表現を好む)性格を好みます。
北海の白鳥 幸せに暮らしている王様がいました。中国の商人からの不老不死をもらいごきげんです。しかしチベットから占い師から将来滅ぼされると告げられます。 すっかり恐れて不幸になった王様は、アラビアから来た魔法使いに王様の日々より平穏な日々が欲しい旨を告げると、魔法使いは王をハマグリに変えます。 ハマグリはワシに連れ去らます。北の国に着くとハマグリは白鳥に姿を変えます。 外国に変身譚とおとぎばなし調ですが、王様の動機が厭世観であり、幸せを題材にする辺りが小川未明らしいです。
時計の無い村 平穏な村に甲所有乙所有2つの時計がありどちらが正確かで争っています。 あるとき時計が壊れます。村人は時計が無くとも暮らせることに気づき争うことなく平穏に暮らしますた。 時計に人間のほうが振り回される、という話はプチ・モダンタイムスというか時代を先取りしているようです。
赤い姫と黒い王子 姫は結婚する王子を調べようと使いを出します。使いはもてなされたこともあり、良い評判を持ち帰ります。 姫は今度は相手に気づかれないように使いを出すと、王子は黒ずくめの気味の悪い格好をしていることがわかります。 結婚が近づくにつれ恐れた姫はこっそり島に向かおうとしますが途中で船が沈みます。結婚の日王子が来ましたが姫はいません。王子は家来を引き連れ、姫の沈んだ島をめざし水中へ駆けて行ったそうです。 君の悪い人を描かせるとさすがと思います。
鍬の怒った話 兄弟が父の死に当たって、兄は土地をそのまま引継ぎ、弟は事業を起こします。 兄は土地価格が上がったときに土地を売り、「もうこんな鍬ともお別れだ」と鍬を投げつけ、商売を始め繁盛します。 ある日兄は店先で弟が荷物の運搬をしているのを見て呼び止めます。そのとき兄は苦労している弟が兄をうらやましがらないのを怪訝に思います。 兄の事業は銀行の倒産と共に終わりました。このことを予期していたかのような弟は兄にもう一度鍬を持って働くよう勧めますが、鍬は「馬鹿にするな」と持ち上がりませんでした。 お金儲けのみを良しとしていないのは、未明らしいのですが、土地の価格が上がって…や銀行に預けて利子で設ける…など子供にわかりにくい題材では?と思います。
強い大将の話 大将は激戦に勝ち、とおりすがりの老婆に帰り道を教えてもらいます。老婆はうそをつき戦場に戻されてしまいます。 今度は若い女に帰り道を教えてもらいます。しかし女もはうそをつき戦場に戻されます。 今度はおじいさんに会います。おじいさんは大将に彼女たちは息子や夫を戦争で亡くしたためついうそを教えたのだろう。 と言い、正しい道を教えます。情に厚い大将は隠居します 野ばらほどではありませんが反戦のメッセージの濃い作品です
自分のつくった笛 笛の得意な少年がいました。鳥の鳴き声のような笛を吹いていて、親からは笛より仕事と言われます。 ある日旅の途中の王様に絶賛され、旅の帰りに立ち寄る、と言われました。次に老人と会うと、上手いが技術が無いので町の著名な先生に習いに行くよう言われます。 著名な先生の笛は綺麗で物悲しく一度聞いた少年はそれが耳に残ります。町から帰ってくると、老人は上手いと言いますが、王様はがっかりし召かかえられる事はありませんでした。 少年の笛=素朴さなのでしょうか。
2つの琴と2つの…(亡失) 琴が上手なお嬢様がいました。みんなを集めて琴を発表していました。裕福でない娘は琴が欲しくなりました。 母親は反対しましたが、父親は娘が不憫でおもちゃの3弦の琴を買いました。娘は弾き方がわかりませんでしたが、 庭に来る鳥にあわせて引いていると次第に上達していきました。娘はお嬢様のように皆の前で琴を引きたいと言いますが母親は受け入れません 発表の機会の無いまま娘は死んでいきますが、お嬢様の先生から娘の琴も上達していたことを教えてもらいます。 ひたむきな人には光をあてます
白い…(亡失) 白い人が見えたので運転手は急停車しますが誰も発見されず、運転手の神経が弱っていたからだろうと言うことになります。 別の日にはベテラン運転手が白い若者を相手に同様の事件を起こします。別の日には白い老人が現れ株式市場は大暴落を起こします。 停車場には少女が白い猫を抱え、今まさにこの町を出てゆこうとしています。それからはこの町に白い人が出てくることはありませんでした。 列車や株と言った近代のシステムへの懐疑が見えます。そうして得体の知れないものが登場します。
あほうどりの泣く日(亡失) いじめられたひとを主人公が助けると、その人はお礼に珍しい鳥をあげるから私だと思って、とあほうどりを渡します。 主人公は年をとってもあほうどりをそばに置き、その話を聞いた人は主人公の姿勢に感動します
春となる前夜 4人が吹雪に迷います。雪の中野宿もできず若者がくじけそうになりますが年寄りが皆を励まし歌を歌います。 彼らの行方は知れませんが、春になり雪が溶けると彼らの音色が聞こえてきました。
紅雀 駒鳥の歌声が上手く、運命の不平等さを感じる雀は、駒鳥に方法を尋ね、その過酷な方法を実践します。 しかしそれは嘘でした。訓練で日に焼け羽根の赤くなった紅雀はいずこへと飛び去ります 小川未明は鳥の名前は「鳥」でなくカラス、雀、駒鳥、山鳩…と種類ごとに描くので関心があったのかもしれません. 頭を下げなかった少年でもそうですが、人生は不平等である、と言う考えを童話にも持ち込んで、時には不平等を憤る人物をつくり、時には貧富のように物語の世界観に活かします。
石段と鉄管 貧しい母と兄弟の子が道中石段で寝ようとしますが、所有者に怒鳴られます。しかたなく鉄管の隙間で寝ます。 弟はこんな暗いところは嫌だといいますが、兄は母の気持ちを察し鉄管を受け入れます
三つの鍵 若者たちが別々の場所から三つの似た鍵を見つけます。学者に尋ねるとその鍵を見つけたものと結婚するお姫様がかくしたものだそうです。 それは遠い昔のことで、実際は当時は見つけられず、お姫様は尼となってすごしたとのことです。学者はお姫様の心境を思います
兄弟の山鳩 兄弟の山鳩は都会の鳩の暮らしを聞き、母に黙って都会へ旅立ちますが、幾許もなく戻ってきます。 兄弟を気遣わしげに見ていた波が尋ねると、町は焼けてしまった、と答えます。
白い熊 動物園の白い熊がその生活に慣れチョコレートで歯がだめになる話です。
春風と王様 家来に面白い話をねだる王様がいました。家来ももうないと尻込みをしていたところ、おじいさんが私が話をする、と言います。 おじいさんも話が尽きてきそうで、案じていると、おじいさんは花の匂いを思い出します。 王様に窓を開けて早春の香りをすすめると、王様も香りを感じ、話で退屈をまぎらわすようなことはしなくなりました。
からから鳴る日 港に黒い薄気味悪い船が泊まります。中からは黒い服で目だけ出した人々がいます。 港の人は気味悪がって、黒い船の頼みも聞かず、嵐が来るとわかっていて沖に出します。 はたして嵐がおき、黒い船は遭難したようで港の人も決まりが悪そうです。 そのうち海岸に黒い石が流れ着くようになります。黒い石は波に洗われからからと音を立てています。 小川未明は擬音をあまり使わないのでタイトルから珍しいと思います。また異世界との入口と言うことで、港や海岸は多用します。 「黒い旗物語」でもそうですが、人間のエゴイズムや、理不尽さ、暴力性も現れています
頭を下げなかった少年 教会で幾人の子供のうちただ一人頭を下げなかった少年は、自分の母は毎日頑張ってるのに、神様は本当に等しく幸せを与えるのか、と問います。 それから少年は、家事労働に忙しく教会に行くこともなく日々は過ぎたのですが、教会が火事になります。真っ先に駆けつけたのはその頭を下げなかった少年でした。
トム吉と宝石 トム吉は宝石店に勤めていますが、売主の身内が病気と聞いて、宝石を騙さずに正当な値段で買い取ったので店の主人に追い出されてしまいます。 故郷に帰る途中、トム吉は砂漠を渡ります。そこで若者と出会い、一緒に旅をします。若者は曲玉を拾い、トム吉に価値を尋ねます。 それは価値が非常に高い曲玉でしたが、トム吉はゆずって欲しくなったので、わざと価値はない、と嘘をつきます。 若者は信じます。さらに一緒に歩くと海が見えてきました。若者は将来の幸福を誓い合い、曲玉を海に投げ込みます。 トム吉は、正直に曲玉の話をすれば、2人とも幸福になれたのに、と後悔します
希望 日々悶々としている、青年は夢を見ます。すると赤い旗の船が来ます。船は黒い箱を置いて行きます。 青年は黒い箱を開けようと思いましたが、ためらいます。 青年の悩みが「この不自由な、醜い、矛盾と焦燥と欠乏と腹立たしさの現実から解放される日は来るのか」 と描写され、人間の青年期に訪れる説明しがたい悩みを、簡潔巧妙に書いていますが、童話の読者からはかけ離れた感があります。
風だけが叫ぶ 両親が死んだ青年は生や死について考えるようになりましたが、仕事中鉄板が落下して亡くなります。 哀れに思った同僚もやがて日常にもどります。風だけが「どうしてあの男が死ななければならなかったんだ?」と 生死の不思議な巡りを問います。風は種を運び種は野菊となり野菊に毒蛾が群がります。 小川未明の作品の特色である「振り向いて欲しい」が表れています。青年の死とはどういうものか その問に気づいて欲しい、また機械文明は機械文明に生きる人は、青年の問いに答えうるのか、否、答え得ないだろう、そういったふうに読めます。
深山の猿 雲を見て山動物達のことを思った老猿はみんなで遊ぼうと思い呼びかけます。 おおかみは酒を調達しようとします。山小屋の店主は冬が来るので小屋をたたんでいました。 おおかみに驚きましたが、酒をとられるのも嫌ななため、酢と水を混ぜたものを入れ、おおかみはそれとは知らずに持って行きます。 単に「みんなで遊ぼう」ではなく、猿が雲の形を見ながらみんなを思い出し「私も年をとったから、せめて達者なうちに、一度みんなとこうして遊んでおこう」と、 人生を振り返ることが動機になった辺りは、小川未明らしいと思います。
金歯 金策に困った母親が自らの金歯を売ることを姉弟に話すと、仕事熱心な姉と 芸術家志向の弟が、問答します。 芸術家志向の弟の言が、小川未明も芸術をこのように捉えていたのか、と思わせる辺り、面白いです。例えば 「…何でも単純に限る。単純なものは清らかだ。ちょうど文明人より、原始人の方が、誠実で感覚的で、能動的でより人間らしいのと同じだ」など
負傷した線路と月 線路が月に「汽車のために傷んだことを伝えて欲しい」といいます。汽車の所へいくと、汽車もまた疲れていることが分かり、月は強く言うことが出来ません。 月が人間を見ると窓の中で赤ちゃんが笑っていました
砂漠の町とサフアン酒 昔、胸の中にうらみをもつ者が、小指を切り血をサフアン酒の瓶に流します。 その酒は町に残ります。ずっと後になって、この町に金を稼ぎに人々がやってくるのですが、 いよいよこの町を出る夜に、つい一杯一杯と飲むうち金を使い果たしてしまいます
太陽と星の下 戦後、戦争について書かれた作品。男の子と女の子が、飛行機の音が聞こえて空を見上げる場面で 「戦後彼らの希望は失われたのでせめてその姿だけでも」とあったり学級会で「大人達の強欲からどうしたら平和にみんなが生活できるか」を話したりします。 個人的な印象では戦中戦後においても小川未明が戦争について「思うところあり」というのはあまり童話の中では見受けられないように思います。
青空の下の原っぱ 主人公は、がさつな子と仲良しです。主人公の姉は金持ちの子のように勉強するように主人公に言い、主人公はうるさがっています。 遊びたがりの主人公は原っぱに行きます。そこにはがさつな子や昔話をしてくれる老人や、仲良くしてくれる青年もいます。 やがて姉もがさつな子のいいところや、金持ちの子の欠点に気がつきます。 主人公は金持ちの子とがさつな子と劇を見に行きます。帰りに雨が降る中 主人公は金持ちの子の車を降りて、がさつな子を追います。 小川未明には珍しく現実の世界で話がまとまっていて、異世界の話が出てきません。「小川未明は子供の視点に欠ける」と 言われますが、良く飛ぶおもちゃの飛行機で金持ちを表現したりと子供視点のものがあります。
以下は小説です。 
蝋人形 できの良くない少年がいて、周囲は皆は上の学校に行きますが、彼は奉公にだされることになり、上京します。 数年後静養に帰ってきました。 静養を機会に蝋人形を作ることにしました。はじめはうまくできませんでしたが、3体作りました。 一体は溶けてしまい、一体は東京に持ち帰りました。もう一体は行方不明でしたが、 彼を支えてくれた女性に渡っていたことがわかりました。 この話は最後の描写の 「海は漫漫として藍よりも濃く、巨浪はとうとうとして岸を打つ。真夏の炎天に笠も手拭もかぶらず、沖から吹く潮風に緑髪を乱して、胸の乳房もあらわに片手に蝋人形をさも大事そうに抱いて、はだしのまままっ黄な、真っ白な草花の咲いている、熱く日に焼けた砂原を歩いて何やら物狂わしそうに歌っているのはお葛である。彼女の胸よりわきかえる燃えるような恋歌の息に、その熱き唇に蝋人形は幾たびとなく接吻されたのである。しかるにその蝋人形さえ、ある年の夏の日に人知れず砂原の上に捨てられてそのまま形もなく溶けてしまった。」 こういうHPを作っていながら、未明の小説はほとんど読んでいなくて申し訳ないですが、女性の描写は珍しいと思います。 こういう格好の女性の存否は別として、未明の理想とする女性美@自然との調和A色彩の調和B主人公をいたわる性格等が現れていると思います。
街の二人 主人公(30代著述家)の行く本屋には絵など趣味を同じくする若者の店員がいます。 そのことを面白く思わない本屋の店主に気を遣って主人公は足が遠のきます。 そのうち若者は主人公を連れ出して絵描きになりたい旨を告げますが、主人公は若者は才能を過信していると指摘し安定した本屋での生活を勧めます。 それでもどこか夢を諦めきれないふうに若者は過ごします 主人公は詩集のカット絵を若者に頼み、主人公は若者に旅行に行こうと提案します 提案したものの主人公は気乗りがせず、なぜ引き受けたのだろう、結局自分もさびしいのだなどと思いつつ 結局旅行に行きます。旅行で若者は主人公好みの女性の絵を描きます やがて若者は品川のあたりに本屋を開店し主人公は様子を見に行きます 若者は変わらぬ様子で迎え、帰りに主人公は今日一日を無駄に過ごしたと思います。 主人公は若者は「ドガよ○○○を描けばもっと」と皮肉を言うなどどこか冷淡です。
鮮血 主人公の娘がしゃこう熱にかかり、付き添いの母親とともに入院することになります。 母親はいつも添い寝しないと寝付かない男の子のことが心配です 男の子はおもちゃで遊んでくれたりしますが、怖がったり、泣きわめいてどうしようもないこともあり、 主人公は母の無い子を想います。 その後もお手伝いさんを紹介されたり、お見舞いの公衆電話をしたりと忙しい日々をすごします 男の子は暇つぶしにしていた散歩をだんだんしたがるようになり、帰ろうとしません。 子供なりに寂しさを解消する方法を見つけたのだろうか、と主人公は想います。 散歩の途中、やさしい女の人との雑談中に男の子は主人公の指を噛みます。すると血があふれてきました 小川未明は女の子と男の子を亡くしています。病気の場面や子供を不憫に思ったりする場面は、 その影響があるかもしれません。 描写は「うす紙をはぐように夜が明ける」など私的な表現があります。
雪の日 主人公は冬に泊まっています。宿には税務署の職員も泊まっています。税務署の職員は宿の人にも慕われ、狩りが得意で獲物をとってきて宿の人と嬉々としたりしました。 主人公は狩りに誘われます。承知したものの、内心迷っている主人公ではありましたが、結局行くことにしました。 獲物はなかなか見つかりませんでしたが、ついに見つけた鳥を撃ち落とします。 主人公は思わず声を上げ、税務署の職員も 「今まで生きていたものが今は死んでいる。霊魂は出て行くものであろうか」と尋ねます。 何とも言えない心地に立ちつつ、帰ります。 また冬に同じ宿に来ましたが、税務署の職員はいなくて、税務署を辞めたと聞かされます。 命が理にかなわぬことで失われてゆくことに税務職員が改めて気づきます。 小川未明の作品には珍しく職業が役人のキャラクターが出てきますが、案の定というかあまり良い描写はされていません。
死より美し 孤独に生きるKは元同僚のNのことを思い返ます。Nは将来のある人物でしたが、若して死んでしまいます。「死んでしまったら虚無であろう、生きてこそ」と思います。 また昔の恋を思い、当時の恋人のところに行きますが、相手が変わり果てていたことで幻滅します。 小川未明は死について考え、結論としては「死よりは生きたほうが…」となり、出来事は余り良い事が起きないことが多いです また、未明は不美人に対しては素っ気無く書くようで、本作品ほか上の「街の二人」「紫のダリヤ」でも素っ気無く書いてます
紫のダリヤ 主人公の妻は入院します。気になった紫のダリヤを買います お手伝いできた女性は太った女性で、容姿等あれこれと注意したくなる女性でした。 ある日泥棒が入ります。主人公は内心お手伝いの女性が犯人と疑ったので警察の捜査結果に納得しません。 お手伝い暇を出して、今度からは何があっても寛大でいようと思います。 次に来た女性は10代の若い女性でした。まだ家事のおぼつかない女性でしたが、寛大に対応しました。 すると今度は女性に情欲がわき苦しみます。 主人公は「結局自分は女性に振りまわされているのだ。」という境地に立ちます。 ダリヤは枯れて黒くなりました。 小川未明には珍しく女性の描写があります「目は自然と円みのある体に止まらずに入られなかった」など。 ただ女性の内面に切り込んだりはしません。「優しそうな女性」と書いてあったらそのまま優しかったりします。
文明の狂人   運転手のミスで駅で倒れた老婆は主人公の母でした。主人公は憤ります。   周囲はどう見ていたのか、怒りをぶつけようか、行動を起こすに自分の存在は矮小ではないかと悶々とします。   それから幾年がたちます。主人公は金持ちの家に石を投げていたずらをします。   勤務先の新聞社で轢死した記事をあげ、鉄道の危険を声高に主張しますが同僚に相手にされません。    通勤中「どうすればいいのだ」という疑問を抱えているうち、列車が人を倒す幻想を見ます。   思わず暴れて、駅員に取り押さえられているうち「それならば…」と考えるのです。 小川未明は文明や金持ちに対して批判的な傾向があり、それに起因する不平等さと、力あるものの甚大な強さを主張します。 その表現方法として「列車が轢く」というのは多々出てきます。タイトルに「狂人」とありますが狂人の発言こそが小川未明の聞いてもらいたい主張ではないかと思います。

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