もう一度行ってみたいブルターニュ(5)
  (1)カルナックへ
 ヴアンヌから列車に乗って11時56分にオーレイに着いた。カルナックヘは
 駅前から、予定どおり12時05分発のキブロン
 行きのバスに乗った。リゾートで賑わうラ・
 トリニト・スル・メールの町やカルナック海
 岸などを通り、約1時間。『乗り過ごしてし
 まわないだろうか』と一抹の不安を抱きなが
 ら、ようやくカルナックに降りることができ
 た。夏の昼間の太陽は、ジリジリと照りつけ
 た。丁度昼食時で、観光案内所は約2時間後
 でないと開かない。重たいからという理由で
 案内書を持たずに来てホテルを出てきてしま
 ったのは大変な失敗であった。巨石群へはど
 のようにしたら行けるのか、全くわからない。
 自転車で遊ぶ少年たちに英語で話しかけたが
 ダメ。人の良さそうなおばちやんに聞いても、
 

【みやげ屋の並ぶカルナックの町】

懇切丁寧にジェスチャー入りで説明してくれ
たが、フランス語なのでさっぱり
解らない。見当をつけて歩き始めたのは良いが、どの位の距離があるのかトン
と解らない。おまけに日影なしの一本道である。夏の日差しがカーツと照りつ
ける。女房は疲れてくると、とたんにタルタル歩きになり、名付けてプラプラ
病が始まる。時計は1時半を指している。腹は減るし、私も少々イライラ・・・
「まだ〜?」と女房。
「ム‥・だって、さっきの人どんどん行けばわかると言ってた。」
「それらしいもの、あるの?」
「・・・・・・」
 小1時間も歩いたろうか。三叉路に出た。標識に、“Allgnements du Menec”
(メネック巨石群)という矢印がある。
「やっと近くまで来たようだから昼飯にしよう。」と言って、私は道路脇の
大きな松の木の下の草原にどかっと座り込んだ。ワインをラッパ飲みする。
喉がここちよい。ハムやチーズをパンにはさんで頬ばる。思わず、
「うまい!」の言葉が出る。ところがである。
「あとどれくらい歩くの?」と女房。そんなこと聞かれても私だって初めて
だし、空腹感から開放されて、やっとほっとしたところに予期せぬ言葉。
また、疲れがどっと出てしまった。しかし、ここで怒ってしまえば、女房の
プラプラ病の症状が増々ひどくなり、
『あなた一人で行ったら。』と言われかねない。そうなると余計面倒なこと
になるので、グッと我慢である。

 
(2)まか不思議巨石群
 遅い昼食を採って『さあ、出掛けよう。』と言って私が先に立つ。そして、
標識の矢印に従って、ほんの50メートルも歩くか歩かないうちに、
あっ、あった!
 何のことはない。昼食をとった場所は少し低くなっていて、雑木で見えな
かっただけで、ほんのすぐ側で休んでいたのだ。
「知らぬこととは恐ろしいことだなあ。」と言いながら、私は、大きな岩が
規則正しく並ぶ雑原を見て、少し興奮ぎみであつた。ところがである。女房
はまだ浮か顔、
「これなの?」『1時間も歩いて、こんなものを見に来たのか』と言わぬば
かりである。冷静に考えてみれば、私もそう思わない訳でもない。確かに、
『世界に知られる奇景』というにはちょっと貧弱である。
「あっちの方から人が来るから、向こうにも何かあるんじやないかなあ?」
と言って、5分程歩くと、はたして、今度は比較にならない程大きな、3メ
ートルはゆうにあろう巨石が、誠に不思議としか言いようもなく、何キロも
先まで10列位に並んで続いている。


 まか不思議、巨石が延々と続く
これは何なんだろう

「これはすごい!」と大きな一人言。本当に信じ難いことが今私の目の前に
広がっている。宗教なのか?カの誇示なのか?それとも例えば氷河に結びつ
く自然のなせる業なのか?紀元前5世紀からあるというこの巨石群のなぞは
未だ解明されていない。


イギリスのストーンヘイジと共に
このカルナックの巨石群も
謎に包まれている

『人間の偉大な力が、古代から現代まで脈々と連なり、そして、未来に
向かっているのだなあ』と思う。さらに、その只中にいる自分は、過去
と未来の接点にすぎない。ほんの一時点の存在のような気がする。しか
し、逆に考えると、その接点がなければ未来への繋がりや広がりもない。
そう思うと、この世に生を受け、生きることのすばらしさを認識できる
ような気がする。ただ、その生き方や生活の仕方には、現状を是とする
かどうか考えねばならない。
 ***
 私たちは不思議な光景を目の当たりにして、興奮気味に辺りをウロウロ
歩き回った。小1時間も居たろうか。再び、歩いてバス停のある町まで
戻ることにした。来るときは、なにもわからず、プラプラ歩いていたので
1時間は掛かったが、結局30分程で戻ることができた。
 ヴァンヌへ戻るためのバスを待っていると、観光用のクルマ、遊園地で
見かける連結式の可愛い車が走って居るではないか。
『そうかのか、行く前に少年がしきりに言っていたのはこれの事なのか』
と合点した。
 ***
「ネエ、あの人見て、綺麗な人だ。」と私たちから少し離れてバスを待っ
ている女性を見ながら女房に言う。
「・・・・」スタイルブックのグラビアから飛び出したような、肌の透き
通ったお嬢さんであった。大体においてフランスの女性は25才位までは
スタイルが大変良いのだが、それからはどんどんと大きくなる。その女性
も25才前のようであったが、それにしても美しい。上品だ。
「こんなに綺麗な人見たことない。」の私の言葉に、女房は全く無反応で
あった。
『何しに来たの?』