もう一度行ってみたいブルターニュ(6)
(1)ブルターニュ半島を西ヘ
 ブルターニュ半島の南海岸は、訪ねてみたい町がいろいろある。ゴーギヤンが
ある時期過ごしたというポンタヴアンや、古い城壁のある港町コンカルノーは是
非行きたいところであったが、時間的に余裕のない旅で行けず、誠に残念であっ
た。
  
 ヴアンヌを昼前の列車に乗り、半島南西端のカンペールヘ向かった。車窓から
入江の碧い海が見える。木々の濃い緑が目に染みる。途中≪ロスポーデン≫とい
う初めて聞いた駅を通過したが、教会の鐘楼を中心に、古い街並みの落ち着きが
心に響いてくるような、そんな雰囲気を感じさせる町であり、ブラッと気ままに
降りて歩いてみたいとも思った。
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 カンペールのホテルも地図を片手にだいたいの見当で行くとすぐに分かった。
2ッ星のホテルであるが、ここではじめてパスポートの提示を求められた。あら
ためて、自分が外国人旅行客であるという認識をした。カンペールは軍港のブレ
ストに近
いためか、他の町と比べ黒人がやけに多い。パスポートの提示を求めら
れたのはそんなことも関係があるのかもしれない。
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【クレープ屋の看板】
 
『ブルターニュでは是非クレープを食べ、シードロを
 飲んでみたい。』と、日本を発つ前から楽しみにして
 いたが、レンヌやヴアンヌで探してもいっこうに見当
 たらなかった。ところが、カンペールでは≪クレープ
 屋≫があちこち軒を並べている。
  私たちはカテドラルの尖塔が見えるクレープ屋に入
 ってみた。そして、念願のクレープとシードロを口に
 した。
 

「さすがに本場のクレープはおいしいわね。もちもちしている。」
「シードロはペケだ。これは酒じやあない。語源どおりサイダーだな。ワインに
比べ、度数はそんなに変わらないのになんでかなあ。」
 そのクレープ屋には、3人の観光客風の黒人がいた。彼らはクレープを3回も
お代わりをしていた。クレープを昼食代わりに食べているようであった。実は、
私たちもまだ昼食前で、少しボリュームのあるクレープを食べようと考えていた
のだが、どれも同じようなもので、結構値段が張るので、2枚ずつ食べてフィニ
ッシュにした。


カンペールのサン・コランタン大聖堂の
旧司教館はブルターニュ博物館になっている。
ステンドグラスや室内装飾が見事。
カンペールは落ち着いた街である。

(2)カ・カ・カ・カ・カンペール
 2ッ星と言えども大変清潔で、ツインベッド、バス、トイレ付きの良い部屋である。
それで200フラン(約5000円)、ツア旅行の日本人好みの豪華高級ホテルではないが、
泊まるだけの私たちにはこれでももったいない位である。旅も後半となり、かなり疲れ
もたまってきた。時計は午後9時を指している。
「明日はナントまで行かナならん。もう寝ようか。」明かりを消すと、田舎とは言え、
まだ夜の街の音が聞こえる。
『あ〜、ブルターニュにいるんだなあ。カンペールか。遠くまで来たもんだなあ。』と
闇の中でフッと思う。
『自分にとって旅とはなんだろう。』『人生とはなんだろう。』想いが頭をよぎる。
すると、突然
『パチン!!』という音。
「蚊がいる。」と女房が叫ぶ。私の方へも『プ〜ン』と蚊の羽音がきた。
『パチン!』
『パチン!』毛布を頭からかぶって防戦態勢をとったが、今度は暑くて仕方がない。
身体はカッカくるし、蚊はプンプン。気持ちはイライラ、イライラ・・・結局、再び
起きて、訳も分からぬテレビを夜中まで見てしまつた。
 
思い出のカ・カ・カ・カ・カンペールである。