=PARIS夏物語=(4)
7 話題満載 in PARIS
パリの第一日目はいろんなことがあった。植物園は朝の清々しさと花の鮮やかさで
心が洗われたし、三ツ星レストランも少しの不満は残ったが、まずまずであった。
炎天下、無くした帽子が恨めしく、買おうと思っていたが丁度いいのがなくて買うこ
とができなかった。オ・プランタン百貨店内の“Burvary”では私の冬のコートを買
った。
「10年前、この店でこれと同じコートを買った。」と私たちの相手をしてくれた店
長さんらしきマダムに言うと、
「そう、それはありがとうございます。それでは、ムッシュにネクタイを一本プレゼ
ントしましょう」と言って、『この中からどれでも好きなものを選んでください』と
ネクタイの束を指した。一万円のプレゼントであった。
「言ってみるもんだね。」女房もご満悦であった。
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ホテルに戻ると、ミスター・フロントが私たちを待ち構えていて、
「水野さん、残念です。バスの中の忘れ物、見つかりませんでした。3箇所に電話し
たのですが、出てきませんでした。」と、いかにも申し訳なさそうな声で言った。
「ノッ、ノッ、メルシ、メルシ」とは言ってみたものの、一縷の望みを彼に託してい
ただけにチヨット残念であった。部屋に戻って、海外旅行傷害保険の冊子をマジマジ
と見てみるとが、『忘れ物は保証できません』とゴチックで書かれていた。
ダメ押しであった。
8 灼熱のパリ
第二日目、今日も朝から太陽がギラギラと照りつける。暑くなりそうである。
午前中、買い物三昧。いったんホテルに戻り、買った物を置くとまたすぐに出発。
昼食は、マドレーヌの『フォーション』の地下でということにした。ここは何度行っ
ても満足できる。自分で食べたい物をトレーに乗せて、レジに持って行くと計算して
くれる。まことに簡単。そして、安くて、旨いのだ。お薦めですよ!
【フォーションのサーモンマリネ:絶品】
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昼食後、予定通り私たち夫婦は、フリータイムとした。私はモンパルナスのギャラ
リーラファイエット百貨店の中にあるスポーツ用品店に行くことにした。私はいつも
この店でスニーカーを買って帰るのだ。
それにしても外の暑さは強烈。フォーションの店内から灼熱の外気に飛び込む思い
で外に出た。真夏の午後2時、ギラギラと照りつける太陽。朝のテレビで、今日の気
温は39度まで上がると言っていた。強烈な暑さである。便利な地下鉄で、マドレー
ヌからモンパルナスへ出た。
私は、いつものスポーツ用品店へ行ってみたが、しかし、デザインも値段も日本と
ほとんど変わらず、暑さも手伝って購買意欲は失せてしまった。
女房との待ち合わせの時間までに3時間はたっぶりある。『一丁、モンパルナスタ
ワ一にでも登ってみるか。』女房が一緒だと『そんなとこ』と間違いなく一蹴されて
しまう。私は元来高い所へ登って街を眺めるのが好きな方である。フリータイムを満
喫する絶好のチャンスである。
『この機を逃したら、多分、永久に登れない』60階の展望台までの料金は48フラ
ン(約1200円)であった。エレベーターの前に並ぶ。夏休みで家族連れや若いカ
ップルもいる。フランスの子供は本当にかわいい。少女が母親の後からそっと覗く格
好で、私を見てニコツと微笑んだ。その表情や目の色、輝きに愛くるしささえ感じ、
私もほほ笑みを返した。
60階のフロアに着くと、皆どやどやとエレベータを降りた。そして、私は人の流
れに添って屋上への狭くて暗い螺旋状の階段を上がった。何段階段を登っただろうか。
少し息切れを感じたところで、目の前がバッと明るくなり、サッと風が入って来た。
『出た、屋上だ』『これはすごい!いい眺めだ』遠くの丘の上に白亜のサクレクール
寺院が見える。眼下のリュクサンプール公園の緑がきれいだ。そして、ルーブル美術
館やノートルダム寺院、アンバリッドも手にとるように見える。中でも約150年前、
セーヌ県知事オスマンによって整備された広い道路と同じ高さに整然と連なる家並み
が私の心を捉えた。
『動いている、生きている人々の生活がそこにある。どんな人生を過ごしているのだ
ろうか。』と、感慨に浸った。
【モンパルナスタワーから:正面はエッフェル塔、右にアンバリッドが見える】
9 さすがフランス人!
『公園の木陰でゆっくり寝転んで休む』これも今回楽しみにしていたことである。
モンパルナスのバスステーションから91番のバスに乗ってリュクサンプール公園へ
行った。ほんの数分である。公園入口のポート・ロワイヤルには都市高速鉄道RERの駅
がある。この駅は私たちが空港からパリに入り、ホテル・スラビアへ行くためにいつ
も利用しているし、また、小さな駅舎はとてもクラシックな雰囲気がある。1993
年12月3日、駅構内で大きな爆弾テロ事件があった。フランスとアラブの対立であ
る。丁度その2週間後に女房と友だち一行がパリを訪れたので、その事件のことは今
でも覚えている。
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真夏の午後3時半、朝の天気予報では39度まで気温が上がると言っていた。その
暑さで公園にはそれほど多くの人は出ていなかった。私にしては珍しく、あまりの暑
さに公園の入口でソフトクリームを買った。12フラン、ショコラである。これがま
た大きくて、その冷たさがとても心地よかった。広い草地の木陰に何粗かのアベック
や家族連れが寝そべっている。むしろ、ぐったりしてごろっといもむしのように転が
っているといった方が正解である。私も草地に寝転んでみた。空が青い。プラタナス
の葉が揺れる。条件は整っている。しかし、この日ばかりは私が求めていた『夏の公
園の木陰で静かに寝転んで休んでみたい』という願いにはほど遠い暑さであった。あ
まりにも暑い。無茶苦茶暑い。木陰のすずしいそよ風はどこにもない。熱風が身体に
まつわりつくような感じであった。
2人の制服を着た係の人、多分公園の警備員なのだろうが、
『ここは立ち入り禁止ですから直ぐに退いてください』と言いながらゆっくりとやっ
て来る。しかし、誰1人として彼らの言うことに耳を傾けようとしない。それどころ
か、『せっかく家族水入らずで楽しんでいるのに何を言うんだ』という感じである。
私の所へも来そうな雰囲気。私は少々迷ったが、しぶしぶ立ち上がった。それにして
も、係員の2人も『どうしても立退け』と実力行使をする分けでもなく『言うだけ』、
言われる方も『聞くだけ』、『さすがフランス人!』と私は妙なところに感心してし
まった。
【灼熱のリュクサンブール公園】
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翌日、私たち夫婦は暑さに閉口したパリを発って、友人の待つフランス中央山塊の
避暑地、サン・フロー(オーヴェルニュ)に旅だった。
《PARIS夏物語》 =おわり=