福澤諭吉訳『帳合之法』全四巻現代語訳発行
【装丁:A5版 309頁】
【中日新聞】
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【拙著の献本先】
=公立図書館関係=
*国立国会図書館*愛知県立図書館*豊橋市立図書館
=大学・高校図書館関係=
*慶応大学*関西学院大学*名城大学*名古屋外国語大学*愛知県立豊橋商業高校*愛知県立時習館高校
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水野昭彦著『福澤諭吉譯 帳合之法 全四巻現代語譯』書評
福澤諭吉翁は、明治6年6月『帳合之法 初編』、翌年6月『帳合之法 二編』合計四巻
を慶應義塾出版局から出版した。本書は、福澤諭吉譯『帳合之法』全四巻(二版)の現代
語譯(以下『現代語譯』とする)である。
『帳合之法』は、『福澤諭吉全集 第3巻』等に収録されている。同書は、原本に比べて
多少読みやすいが戦後生まれの読者には不便である。この不便を解消した『現代語譯』は、
戦後生まれのわれわれにとって『帳合之法』が身近になった。
黒澤清先生は、『職業会計人の実践哲学―福沢諭吉の「学問すすめ」と「帳合之法」の
研究』(TKC出版,1986)において、「『帳合之法』と『学問のすすめ』は、不可分の作
品であり、その内面的関係を閑却しては、そのいずれをも正しく理解できない」と主張さ
れている(同書P.4)。この『現代語譯』によって、『学問のすすめ』(現代語版は出版
されている)の理解度は高まることになるであろう。
水野昭彦氏は、この『現代語譯』出版の動機のひとつに、商業教育を担う教員のブラッ
シュ・アップの必要性を挙げられる。このことは、同氏が30年を超す商業科の教員として、
また、商業高校の校長としての経験からの実感だろう。氏の含蓄のある指摘である。現在の
商業科教員による商業教育は、HOW TOに傾注した観を否めない。(思考・判断能力の育
成が意識されない傾向にある)同氏は、商業教育を「人づくり」の観点から力説される。
この商業教育の「人づくり」の観点については、筆者の考えと異とするところであるが、
福澤翁が目指した「実学」の啓蒙において理解できる。つまり、福澤翁がいう「実学」と
は、学問を日常生活や実社会に役に立てる科学のことである。
『帳合之法』の原書名は、アメリカの簿記書 Bryant & Stratton’s Common School Book
-keeping,1871である。同書はBryant
& Stratton’s Book-keeping Series 3册の中の1册
である。他の2册は、National Book-keeping、1860とCounting House Book-keeping,1863
である。本シリーズの編集者は、Henry
Beadman Bryant(1824〜1892),Henry
Dwight
Stratton(1824〜1867),Silas
Sadler Packard(1826〜1898)である。『帳合之法』は、
初編2册と二編2册の4册である。初編2册は、略式(単式)帳合である。二編2册は
本式(複式)帳合である。初編2册は、原書のSETT〜Wまですべて翻訳されている。二編
2册は、内容と分量を理由に原書のSETT〜Uまでを翻訳 されている。二編の未翻訳部分
は、SETVと、SETWである。
福澤翁の『帳合之法』翻訳の工夫については先行研究に譲るが、『現代語譯』はさらに註
釈を付して理解を助けるための配慮がなされている。原書Bryant & Stratton’s Commonol
Book-keeping,1871は、洋学堂書店(佐賀市)から複刻版が出版されている。『現代語譯』は
、原書を理解する上でも大変役に立つ。例えば、原書ではBalance Sheetが貸借対照表
(この用語は明治23年商法用語)ではなく精算表であることやアメリカ簿記書なのに決算
において大陸式が用いられるとされている残高勘定を使用することなどがわかる(ただし、
仕訳帳に仕訳をせずに赤記して残高勘定や損益勘定を締め切る方法である)。
以上のように、『現代語譯』は、会計学界への貢献のみならず、商業科教員の座右の書と
して加えられる良書である。(1冊 価格¥1800 送料¥340)
問い合わせ先:〒441-8141 豊橋市草間町平南77−1 水野昭彦様
e-mail td-mizuno@msg.biglobe.ne.jp
文責 久留米市立久留米商業高等学校教諭 江頭 彰
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《あとがき〜現代語訳にあたって》
私が豊橋商業高校に『帳合之法』のあることを知ったのは、平成十二年四月同校に着任して
しばらくしてからであった。それは同校の同窓会博物館のガラスケースの中に大事に保管され
ていた。ただ私はそれを見て、学校の生徒や職員あるいは来校者に気軽に見ていただきたいと
いうことと、大変貴重な資料であり、セキュリティの面から校長室へ移すことを決めた。以来、
機会あるごとに同校がこの貴重な書物を所有していることを公言し、数多くの方々に見ていた
だいた。
また、豊橋市美術博物館の学芸員の方に調べていただいた結果、「木版による印刷であるから、
多分百部から二百部の発行であろう。その中で、初版本が全四巻揃っていることは珍しいこと
である。福澤諭吉研究の貴重な資料である。保存状態も良く、大切にしてください。」との回
答をいただいた。
本書のことは、私が大学一年生の時簿記を勉強する中で、福澤諭吉が複式簿記をアメリカか
ら日本に初めて紹介した本であるということで知っていた。しかし、それ以上のことは知る由
もなかった。ところが、私が同校に着任し、その原本が自分の目の前にあり、手にとって見る
ことのできることを知って少なからず興奮を覚えた。
こうした歴史的に有名な書物は、ややもすると、その題名や著者は知られていてもその内容
まで知ることは、意識的にまた意欲的に接しないとなかなかできないことである。私自身がそ
うであったように、商業教育、簿記教育に携わる諸兄も本書の存在は知っていても、直接読む
機会を得た人は少ないのではないかと思われる。
私が現代語訳すること自体まことに僭越であり、また、無謀なこととは解っている。私は簿
記史の研究者でもなければ、福澤諭吉について深い知識を持っている訳でもない。また、明治
時代の言葉を正確に訳すことに自信があるわけでもない。ただ、簿記教育に長年携わってきた
者として、その内容を現代語に訳しておくことも多少の価値があるのではないかという思いで、
「現代語訳」としてここに残す次第である。
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「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり。」これは誰もが知っている福澤諭
吉の『学問のすゝめ』の冒頭に書かれている一文である。この本は、明治五年二月から同九年
十一月までの間に十七編に亘って書かれた彼の代表作品である。
その初編には次のように書かれている。
賢人と愚人との別は、学ぶと学ばざるとに由って出来るものなり。・・・ ただ学問を
勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるな
り。・・・実なき学問は先ず次にし、専ら勤むべきは人間普通日用に近き実学なり。例えば、
いろは四十七文字を習い、手紙の文言、帳合の仕方、算盤の稽古、天秤の取り扱い等を心得、
なおまた進んで学ぶべき箇条は多し。
更に、二編にも次の件【くだり】がある。
経書史類の奥義には達したれども、商売の法を心得て正しく取引をなすこと能わざる者は、
これを帳合の学問に拙き人と言うべし。・・・帳合も学問なり、時勢を察するもまた学問
なり。
日本が近代国家へ生まれ変わるためには学問が大事である。そしてその学問とは、科学的思
考に立脚した実務や日常生活に密着した習い事などであると諭吉は説いている。今日の日本の
教育理念にも通ずる考え方であり、また、長年商業教育に携わってきた者として大変勇気づけ
られる言葉である。
『帳合之法』初編が明治六年六月に発行され、全四巻の出そろったのが丁度一年後の明治七
年六月ということを考えれば、諭吉翁の頭の中では、『学問のすゝめ』で書いたことを『実学
のすゝめ』として、具体的にこの『帳合之法』を世に出したと見ることもできる。その意味で
は、私は『帳合之法』は『学問のすゝめ』の続編、あるいは姉妹編であると考えている。
十九世紀のドイツの詩人ゲーテは、複式簿記を「人類の創造した最高のものの一つである」
と言っている。また、明治時代の熱血詩人与謝野鉄幹は「簿記の筆とる若人にまことの男子の
子君をみる」と詠っている。
三十五年間にわたり簿記教育に携わってきた私としては、人類の創造した最高傑作を生徒に
教え、また、百三十数年前に、我が国の近代国家を夢みた若きリーダーによって書かれた『帳
合之法』の原本をわが手にして読むことのできたことは至上の喜びである。
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将来の日本を見据え、諭吉の欧米社会に追いつけ追い越せの強い意気込みは、初編凡例のみな
らず全編に亘って感じられた。各編毎に系統的に大変解りやすく構成されており、複式簿記をこ
の国に普及させることが豊かな日本を創るという信念であった。明治六年に『帳合之法』が出版
され、これを本に全国各地で簿記教育が行われていった事実は当に感動に価することである。因
みに、明治二十三年には東京に四十七校があったというから驚きの何ものでもない。今日の日本
の繁栄の礎は、諭吉によって創られたと言っても過言ではないと思う。
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現代語訳する上で、私の力不足から次の点には大変苦労した。
☆文章に句読点がない。
☆筆書きの部分もあり、達筆で読むことが難しい箇所があった。
☆計算間違いが結構あった。これはその都度訂正をしたつもりである。
原本の大きさはA5版なので、この本も同じ大きさとした。また、字は資料にもあるように十五
ポイント位の相当大きなものである。ただ、ここでは通常の一○、五ポイントを基準とした。
更に、文中のいろいろな括弧については、原本中に使用されている括弧は全て〔 〕を使用し、
他の括弧は読みやすくするために適宜使用した。
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この度私が『帳合之法』を現代語訳するにあたり、友人の歴史学者、東京女子大学水藤眞教授に
は大いに勇気づけられ、また同僚の国語学者、名古屋外国語大学の佐々輝夫教授にはいろいろ相談
に乗っていただき大変お世話になりました。心から御礼を申し上げます。
平成二十一年十月
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