2002年度研究計画など、

(1) 2002年度に書いた、研究の計画

以前にも書いていますが、手をつけているいくつかの問題について、少しづつ
進展を加えつづけています。2002年度の計画として、科研費の実施・申請書にかき
ましたものを、まず、ここに再掲載したいとおもいます。

1.

代数多様体や複素解析空間にあらわれる特異点を調べるにあたって,blowing-up による
考察は基本的かつ重要な課題である。
本年度に於いては,特にフィルター付きブロウイングアップとしてあらわれる blowing-up
について,附随するtangent cone (接錐)と例外因子の偏極多様体として構造の
研究をおこなう。
次の具体的な問題を中心的な目的に置くものである。

(1) 正則局所環に対して,そこに定まる附随する接錐が
孤立特異点を持つ整域になるような filtered ring としての構造を決定すること。

(2) (1) で対象とする環を3次元単純K3特異点に変えるときに,その接錐の構造
は「特異点自身と同じ環論的な不変量(例えば埋め込み次元)を持つか?」を問う。

(3) filtered ring の立場から,特異点の多重種数$\gamma_m, \delta_m$ の 接錐のデータにより
評価すること。

\vskip 1cm


一つイデアルによるblowing-up としての変換は最も基本的であるが,
一方,双有理幾何学での様々な操作に於いては,
因子をblow-downするという逆操作により自然に考察されるblowing-up がある。
それらは,むしろ因子から誘導されるイデアルの減少列から定まる変換,
すなわち filtered blowing-up として考えるのが自然である。
この様な事実が,本課題の背景にある。
ここでは,blowing-up を定めるfiltered ring は
次数付き環と自然に比較されることが多く,「次数付き環の可換環論」と
「代数多様体の分類理論」の密接な関連から生ずる問題ともとらえられる。
 ここでは,この分野の研究の進展状況を見据えて
以下の点に配慮した実施計画をたてるものである。

(1)
2次元,3次元(標数がゼロ)の場合には,研究代表者による肯定的結果があり,特に
4次元以上の場合または基礎体が正の標数を持つ場合の研究が最初の目標である。
3次元での肯定的解決は,純粋な可換環的な問題に対する
代数幾何学的なアプローチでの有効性を示すものである。本課題はその限界・問題点を
明らかにし,次に焦点を当てるべき興味ある対象を提示するであろう。
既に関連する結果の研究集会での発表に対して色々反応があり,代表者自身,
filtered blowing-up の理論の
重要性を再認識している。更に,多くの場での発表・研究連絡による研究の進展が期待される。

(2)についは, 
状況を,一般の標準 filtration に広げると,不変量が異なる接錐を持つ場合があるが,
「これらが微少変形により本課題の状況に移り変わるか?」も同時に考える。

(3)として,更に細かく,
(3-a)接錐が孤立特異点を持つ整域となる場合の上からの評価,および(3-b) 接錐が Gorenstein
環または,更に広く Cohen-Macaulay 環となる場合の下からの評価,(3-c) そして,その誤差項
の解析,などが考えられる。もともとの
渡辺敬一氏との共同研究であるfiltered blowing-up の基礎理論(Publ. RIMS 1989) の拡張を自然に
めざすものである。


\vskip 0.2cm
\noindent
 $\underline{内外の関連研究の中での位置付け}$。

極小モデル問題にあらわれるdivisorial contraction は,本研究(1)と近い
研究対象である。最近の川北(Invent Math. 145 (2001)) による3次元smooth case の
結果は重要である。(1)は一つのvariation とも考えられる一方,可換環論的には自然な
位置にある未解決な問題である。
(2)はまず,研究代表者の研究Invet. Math. 104(1991), Math. Zeit. 237(2001)の延長線上にある。
そして,(3) について,近年多重種数による分類論は,奥間の
2次元の研究,Flenner-Zaidenberg による$L^{\{2/m\}}$-層の研究などがあり,(2)(3)は 
重要な研究対象でありつづけている。



(2) 2003年の一月に書いたここ何年かの発表に関する報告です。


1.発表論文のリスト

[1] Shihoko Ishii, Masataka TOMARI;
Hypersurface non-rational singularities which look canonical from
their Newton boundaries.
 (2001,  Mathematische Zeitschrift, vol.237, 125-147 )

[2] Masataka TOMARI,  Kei-ichi Watanabe;
Cyclic covers of normal graded rings.
 (2001, Kodai Mathematical Journal, vol.24, 436-457  )

[3] Masataka TOMARI;
Multiplicity of filtered rings and simple K3 singularities of multiplicity two
(2002, Publ.RIMS, Kyoto Univ., vol.38-4,693-724)

[4] Masako Furuya, Masataka TOMARI;
A characterization of semi-quasihomogeneous
function in terms of the Milnor number,
( to appear, Proc. Amer. Math. Soc.)

2.口頭発表のリスト

(1999年度)

1999.3.27, 泊 昌孝;
正規次数付特異点のセグレ積の孤立特異性と有理特異性の判定について、学習院大学
         日本数学会(一般講演、代数学)

1999年 9月 泊 昌孝;
正規孤立特異点の多重種数と filtered blowing-up I (下からの評価),
広島大学 日本数学会(一般講演、代数分科会)

1999年 9月 泊 昌孝;
正規孤立特異点の多重種数と filtered blowing-up II (上からの評価),
広島大学 日本数学会(一般講演、代数分科会)

1999年12 月 泊 昌孝;
Plurigenus of normal isolated singularities and filtered blowing-ups
 Hayama Symposium 99 on Several Complex Variables,
神奈川県葉山、湘南国際村センター

2000年3月 泊 昌孝;
 Associated graded ring が孤立特異点となる正規孤立特異点について,
早稲田大学  日本数学会(一般講演、代数分科会)


(2000年度)

2000. 11月10日 , 泊昌孝;
「Plurigenus of normal isolated complex analytic
singularities and filtered blowing-ups- lower bounds of
$\delta_m,\gamma_m$」実特異点研究集会、横浜シンポジア

2000.12月13日, 泊昌孝;
「Certain associated graded rings of 3-dim
regular local rings are regular」、研究集会「特異点とその境界の構造」
東京工業大

2001. 3月, 泊昌孝;
「Normal graded cyclic covers of the Kummer
type and the Veronese subrings」、日本数学会(一般講演、代数)
慶応義塾大

2001. 3月, 泊昌孝;
「Certain associated graded rings of 3-dim
regular local rings are regular」、日本数学会(一般講演、代数)
慶応義塾大


(2001年度)

2001.5月, 泊昌孝;
「Certain associated graded rings of 3-dim
regular local rings are regular」,
京大数理研研究集会「Newton polyhedrons and singularities」

2001.8月, 泊昌孝;
「Certain associated graded rings of 3-dim
regular local rings are regular」、
Symposium on Commutative Ring Theory、横浜海員会館

2001.11月, 泊昌孝;
「正規次数付特異点のセグレ積について(孤立特異点、
有理特異性、そして多重種数)」、
第23回 可換環論シンポジウム(サンピア倉敷)

2002.3 月,古谷雅子、泊昌孝;
「A characterization of semi-quasihomogeneous
function in terms of the Milnor number」、
日本数学会(一般講演、代数)明治大学理工学部


3.研究概要(5〜6行程度)

(1999-2002)全般
正規解析空間の特異点の局所環に幾何学的に定まる様々な filtration
による blowing-up を特異点解消と不変量の関係から研究した。とくに、
この4年間では、filtered blowing-up と多重種数の評価、
特異点の Segre product の有理特異性、3次元端末特異点、次数付特異点の巡回被覆、
ミルナー数の評価、curve 特異点の多重種数についての研究に進展があった。


以下は、年度別

(H11=1999) 
filtered blowing-up の幾何により、特異点の多重種数に関する
上下からの評価を得た。特に下からの評価の等号成立によって、filtered 
blowing-up によるえられる標準モデルの存在条件を与えた。Associated
graded ring が孤立特異点となる正規孤立特異点について、星形特異点の
高次元化となる特徴づけをおこなった。


(H12=2000)

端末特異点のfiltered blowing up で、associated graded ring
が孤立特異点になるものの研究を経て、3次元正則点についての tangent
cone の正則性を示した。2次元次数付環のUFD 性と巡回被覆のKummer型関係を
森氏の分類と関連させて導いた。

(H13=2001)

超局面孤立特異点を定義する関数 f に対して、その Milnor 数 $\mu(f)$ を
座標に与えられた 重みと、それによる weighted Taylor 展開 $ f= f_\rho +
f_{\rho+1} + .... $ の言葉による評価式を与え、等号成立によって、
$f$ がsemi-quasihomogeneous 関数になるという判定基準を与えた。
これは、泊の filtered ring の重複度理論の応用として達成された。

(H14=2002)

curve singularity について、多重種数 $\delta_m$ を定義し、その
一番やさしい特異性を持つクラスとして、通常特異点の特徴づけを得た。
また、Newton 境界による計算公式を非退化 Newton 境界を持つ場合に示した。




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メール: tomari@math.chs.nihon-u.ac.jp