第98回研究会報告
「つくば研究学園都市:TX開通による新しい住宅地像」
平成19年5月27日に、筑波研究学園都市を巡る研究会が開催されました。当日は、小場瀬会員(筑波大学教授)と姉歯会員(都市再生機構茨城地域支社長)の案内で、都市再生機構より手配されたバス移動で、広域でありながら効率よく現地研究が実施されました。参加者は、新しく会員になった溝口会員(H10院・土木)など、午前と午後の合計で17人となりました。
今回の研究会は、以下のような2つの目的を持って開催されました。ひとつは、筑波研究学園都市建設法の制定から35年余りを経過し、これまでに形成されてきた住宅地や個別の意欲的な建築群がどのような状態になっているのかを確認し、今後のあり方を考えること。もうひとつは、筑波研究学園都市内の研究施設に通う人達のために開発されたこのNTが、つくばエクスプレス(TX)の開通後2年弱を経て、どのように変化しているのかを検証することです。
始めに、古くからの住宅地や建築群の状況についてです。これは当然のことではあるのですが、やはり周到な計画・設計と、確かな施工と、適切な維持管理のされているものは、今なおその輝きを増しているということです。
例えば、バブルの絶頂期からそれがはじけてしまった時期(1989年から1993年)にかけて建設された、4階に空中屋外共有通路を持つことで話題になった県営松代アパートは、十分な維持がなされていないため、老朽化が進んでいるように見えました。また、意欲的な計画の学校建築として知られる原広司設計の竹園西小学校は、10ヶ月という工期と少ない予算による打ち放し建築であったためか、竣工後17年目にもかかわらず、遠目からも鉄筋の爆裂がいたるところに見られ、外壁にひどい汚れが目立つような状態でした。
それに対して、同じ県営アパートでも、1985年に完成した内井昭蔵設計の小野崎アパートは、大変良好な状態で、住めるものならすぐにでも住みたいくらいの状況です。また、1987年に戸建住宅地として設計された二の宮四丁目地区は、緩やかに弧を描く地区内道路と、豊かな道路内植栽、そして隣り合う住宅の駐車場が一体的なポケットパークのようにしつらえられているなど、優れた計画がされていました。また、その環境に誇りを持つ住民は、それぞれの家とその周囲を十分に手入れしているので、ため息が出るくらい成熟した素晴らしい住宅地でした。なお、この地区は、当日参加した二瓶会員が若き頃、宮脇壇建築研究室で携わった事業であり、二瓶会員から詳しい説明を聞くことができ、大変勉強になりました。また、現在も戸建の建築中である地区として視察した葛城地区も二瓶会員が計画した地区であることがわかり、二瓶会員の実力の確かさに驚いた次第です。
次に、TXの与えた影響についてです。これは、開通後わずか2年弱にもかかわらず、筑波研究学園都市に劇的な変化を及ぼしていると言えます。
筑波研究学園都市は、他のNTと比較すると、職住近接の分散配置型な計画です。商業施設も、つくばセンターの周辺に特に集積しているわけではなく、筑波大学の脇やその他の場所にもゆるやかに集まっています。就業地も、広大な敷地を持った研究所やその関連施設が、広域に分散している状況です。
しかし、TXが開通したことで、筑波NTは他のNTと同様に、東京のベッドタウンとしての性格を持ちました。そのため、新駅つくばには通勤通学客や休みの日の買い物客などを対象とした商業施設が急激に増えています。また、バスなどの公共機関が不十分なため、自家用車で駅に来る通勤者も多く、そのための屋外駐車場や立体駐車場も増えています。さらに、容積緩和を最大限に利用した共同住宅が、駅の直近に次々と建てられ、当初のNTの計画理念は吹き飛ばされてしまったような状態でした。
さらに財務省は、老朽化した国家公務員住宅敷地の集約と公務員住宅の高層建て替えを進めるとともに、そうして作り出した土地の民間売却を進めています。それらの土地は、当然のように高容積の共同住宅になっていきます。
このような状況にあって、小場瀬会員からは、自らもつくば市の各種委員として景観のコントロールなどについても努力していることなどが話されました。しかし、現実には、その力ははなはだ弱いもので、現在の法の運用などの問題に十分対抗できていないことがわかりました。また、姉歯会員からは、今の都市機構は、とにかく造成地を民間に売却することだけに力を傾けなければならないような状況に置かれていること。そのため、建物をコントロールするための地区計画などには、なかなか携われないことなどが話されました。
意見交換会では、そのような状況を踏まえた上で活発な発言が相次ぎました。しかし、急激な変化に対する驚きのほうが大きかったこともあり、これからの開発をコントロールする、大局的な手法を見出すまでには至りませんでした。とにかく、今後も、筑波研究学園都市には注視が必要です。 (59卒 清水)