ぶーぶーの事情(その五)
見張るぶーぶー。
ズーッと以前から、僕は知っていたよ。
お母さんがお部屋で編み物をしたり本を読んだりパソコンをして今日は静かです。
ぶーぶーも出窓のベットの中でま〜るくなってすーすーと寝息をたてて静かです。
しばらくすると飽きっぽいお母さんは「草とりでもしようかな〜」と
お帽子かぶって、長靴をはいて、お外へでて行きいました。
すると玄関の鈴がチャリンチャリンチャリンと鳴りました。
ぐっすり寝ていたはずのぶーぶーはハッと顔をあげてきょろきょろ
それからチャリンチャリンの鈴の音に耳をそばたて、あわてて起きあがり、
あの体重で出窓からドスッと飛び降りて血相変えて玄関へ。
おかあさんがたった今、きちんと閉めたばかりの、玄関戸を
カリカリカリリッとヒステリックにひっかいて3センチくらいあけると
ぶーぶーはそこに右手をつつこんで後ろ足を開いて腰に力を入れて
ウンコラショ!と踏ん張って戸を開けて、飛び出してゆきます。
玄関前で「ニャオオン!ニャオオン!」とおお鳴きしてお母さんを呼びます。
お母さんからズ〜ッと離れて座って、お母さんが何をしているか見ています。
おかあさんが居なくならないようにぶーぶーは3年まえからずーっと見張ってるんだ。
その証拠にお母さんの写す庭の写真の片隅にぶーぶーがいつも小さく写ってるよ。
鈍感なお母さんも、このごろやっとぶーぶーの視線に気がついたみたい
だって夕べ「気のせいか...ぶーぶーに見張られているような気するの...」
ってお父さんに言っていたから。
ぶーぶーの事情(その四)
ぶーぶーのすりすり
ぶーぶーが、すりすり出来るようになりました。
お母さんの足に「すりすり」するのに12年間もかかりました。
ブーブーのすりすりタイムの条件は
お母さんが左手で缶を押さえて右手で缶切りをしている時とか
左手にお皿を持って、右手にお箸を持っている時とか
左手にお茶碗を持って、右手に持ったおヘラでご飯をよそっている時とか
左手で大根をおさえて、右手の包丁でトントントンと上手に千切りしてる時とか
左の手にドライヤーをもって、右手のブラシで髪をくるくるしてる時とか
左の手も右の手もポケットに入れている時とかです。
お母さんはぶーぶーのすりすりがうれしくてうれしくて、
毎日「ぶーぶーのすりすりタイム」を楽しんでいます。
昨日も、玉ねぎを一個づつ持った両手を、ぶーぶーに見せびらかせて
「ぶーぶー!こ〜れ?ぶーぶーのこと触れないよ。」
ぶーぶーは安心して、お母さんにかけよってすりすり。
でも、今日のお母さんは少し考えて、後ろ手に手を組みました。
そして「ぶーぶー!こ〜れ、お母さんのお手ゝないよ。」
ぶーぶーも少し考えてから、お母さんにかけよってすりすりしました。
ぶーぶーがすりすりする度、お母さんはいいます。
「ぶーぶーはすりすり出来てえらいわね〜、いい子ね〜、可愛いぶーぶーね〜」って
でも、僕は思うけど、、、、
ぶーぶーは何時になったら、
僕みたいに上手に「抱っこ」が出来るようになるんだろう、、、、って。
ぶーぶーの事情 (その三)
本当は八つ子の母なのです。
12年前の秋「ぶーぶーのお腹、大きいみたい...」
お母さんが言いました。僕は思いました
「ぶーだけ美味しい物を、たくさん食べたんだナー」
ある日、僕とクックとぶーぶーはひどい風邪ひきました。
ブシュン ブシュン ゲホ ゲホと、それはもう賑やかでした。
お母さんはクックと僕を有無をいわせず捕まえてバスケットにいれ
病院につれて行きました。
いやがる僕たちを無視して注射をうったり、
口を無理矢理こじ開けて、薬までなげこみました。
あまりの恐怖に、帰りはグッタリ。
でも風邪は、すぐによくなりました。
こわがりのぶーぶーは捕まるのイヤイヤと逃げ回るので
病院へゆけませんでした。
ぶーぶーは一日中 ブフッ!ブフッ!ゲホ!ゲホ!
咳を苦しそうにし続けました。お母さんはぶーぶーが心配でした。
そしてとうとう、お母さんの心配は的中しました。
「ああーっ、ぶーぶーが流産した!」
「ぶーぶー!どうするのー?病院イヤイヤいってるから...」
「可哀想に赤ちゃん...悪いママねっ!」
お母さんは、重症の風邪と流産のショックでぐったりと動けなくなったぶーを
驚かせないように静かに優しくバスタオルにくるんで病院へ飛んで行きました。
でも、ぶーのお腹の中にはまだ赤ちゃんが残っていました。
翌年の2月 ぶーは初めての赤ちゃんを3匹産みました。
最初の赤ちゃんはぶーぶーが一生懸命舐めてあげても動きませんでした。
次にチョンちゃんがうまれ、そして、ゆきちゃんがうまれました。
一年前、ぶーぶーとクックと僕が生まれた
同じ押入の同じダンボールのなかで、
ゆきちゃんとチョンちゃんを産んでママになりました。
ぶーぶーの事情 (その二)
色っぽいな...
ぶーぶーは不幸な星のもとにうまれたネコです。
こずくりでガッチリ太りの彼女ですが
なぜか彼女だけに不幸が訪れます。
一歩すすんで耳をそばだて
二歩すすんで身を伏せて
三歩めには逃げ帰る
警戒心いっぱいでいるのに可哀想です。
ぶーぶーば生まれたとき僕と同じような立派なながーいしっぽがありました。
ある日 お母さんは息を呑みました。
皮一枚でねもと近くから切断された尻尾を
ずるずる引きずりながらぶーぶーは一生懸命帰ってきました。
アクシデントと痛みで動転しているぶーぶーは
部屋の隅のネコ座布団でみんなを睨み付け
ようすを窺うために近づこうとする僕やクックを威嚇しました。
なにがなんだか解らない僕たちも
お母さんの様子から、ぶーぶーがただならぬ
状況に成っていることがわかりました。
「ぶーぶーは死ぬんだナー」とみんなが思いました。
しかし 生命力は強いのです。
3日くらいして
皮がだんだん乾燥してぶらさがっていた尻尾と共に落ちました。
短くなった尻尾の傷口から尻尾の骨が5pくらい白くのぞいておりましたが
日が経つに連れて、骨が灰色に変色し一節毎に短くなってゆきました。
それは木から枯れた花がポロリと落ちる様子と似ておいました。
こうして、ブーブーの尻尾は
ハートを逆さにしたような形になりました
なんだか、とても色っぽいお尻になりました
これを、本当の怪我の功名って言うんだな...
ぶーぶーの事情 〈その一〉
お母さんの冬だけの楽しみ
ぶーぶーを触れるのはストーブシーズンの冬だけです。
人間嫌いの彼女も冬の寒さは苦手です。
おずおずとみんなに混じってストーブの前に陣取ります。
ストーブ前の一番良い場所はお母さんのイスや座布団があって
その横にネコイスやネコベットやネコ座布団があります。
お母さんが居ないときは一番暖かいお母さんの場所を使うことが出来ます。
不覚にもお母さんが戻ってきたのをしらずに
気持ちよく寝ていると
「あーら、ぶーぶーじゃなーい。チョット触ってイーイー?」
とかいって
背中をつんつんつつかれたり、なぜなぜされてしまいます。
ぶーぶーはそれだけで気を失いそうな位で
ニヤッ=きゃっと叫んで動けなくなり ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ。
緊張のあまりせき込むのです。
俗に言う自家中毒なんです。
するとお母さんは
「ごめん、ごめん、こわいのねー、さわらない!さわらない!」
でも次の日やっぱりお母さんは
「いいじゃなーい、減るものでもあるまいし、チョット触らせてねー」といって
人差し指でチョコチョコなでます。
ぶーぶーはやっぱりゲホ!、ゲホ!、ゲホ!
お母さんは白々しく
「ごめん、ごめん、さわらない、さわらない」
でも、楽しそう...お母さん
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