英国の多くの劇場で非営利公的助成/商業主義の枠を超えて急速に広がりを見せているのが、
「リラックス・パフォーマンス
(relaxed performance)
の取り組みです。

学習障がいをもつ子どもや若い人々、その家族に
彼らに特化して創造された作品ではなくメインストリーム、いわゆる普通の人々が観に行く作品にアクセスできるようにする実践です。通常の公演日程のなかで、1回から数回の公演を、特別に「リラックス・パフォーマンス」と銘打って、広報し、販売し、上演を実施しています。

チャリティではなく、きちんとしたビジネスとして。
ただ、違うのは、チケットの購入者に対して、担当者(たいていはエデュケーション部のメンバー)は一人ひとりに電話等で連絡をとり、障がいの種類や程度、どのようなサポートが必要なのかを確認する作業が行われます。
事前の詳細な資料も送付する―多くの人々にとって、はじめての劇場体験だからです。

劇場の担当者は台本を熟読し、ときに稽古にも立ち会いながら、激しい光の点滅や衝撃音等、障がいを持つ人々には適さないものを、丹念に洗い、調整を求めます。もちろん、完全なる暗転は排除されます。児童青少年演劇ではそれなりに配慮されてきましたが、メインストリームでは、暗転が当然、非常灯も消すのが普通、そのような実践へのチャレンジでもあります。
客席の配置・アレンジメントも(自由に歩き回れるように、あるいは車椅子に対応しうるように)変えます。
すべてが芸術監督やデザイナー、テクニカル・スタッフの理解なしには、なしえない作業なのですが、それを実施しているのです。
出演者にも契約の際に、リラックス・パフォーマンスも含まれることが伝えられ、それに対応することが求めらます。
終演後にコミュニケーションの時間が設けられたりもするからです。
また、舞台に飛びだす懸念に対しては、開演前に舞台の上にあげ、装置に触らせてあげるという措置もとられます。
表方のスタッフは、事前に、障がいについて学び、その介護・ケアのトレーニングを受けます。一般と同じ
演目であるため、ときに上演時間は2時間半を超える場合もあります。
そのため、一時避難の場所をも用意しておく…。
つまり、劇場は、あらゆる事態に対応すべく、全員体制、準備万端で受けいれるのです。


リラックス・パフォーマンスという名称を初めて使ったのは、リーズの地域劇場ウエストヨークシャー・プレイハウス。2009年に着手したそうです。
ロンドンの児童青少年専門劇場ユニコーンシアターは、
2010年から「自閉症フレンドリー・パフォーマンス」として、実施しています。

急激な広がりのきっかけとなったのは、201211月から20136月までの8か月のあいだに、自閉症の人々を支援するナンシー・ルリー・マークス・ファミリー財団の財政支援により、ウエストエンド商業演劇の業界団体SOLT(Society of London Theatre)、地域劇場の業界団体TMA(Theatrical Management Association)、子どもにとっての芸術活動を支援するプリンスズ財団のパートナーシップにより、英国全土の8つの劇場で実験的な試みが行われたこと。ウエストエンドの『ライオンキング』や、シェークスピア・グローブ座の『ロミオとジュリエット』、地域劇場での『レイルウエイ・チルドレン』等に、4,893名が観劇しました。

観客の多くは、自閉症のみならず、アスペルガー、知覚やコミュニケーション障がいがあるという理由で、「劇場で観劇する」という、ごく普通であるはずのファミリー・イベントから疎外されてきた家族たち(とりわけ、英国人にとって、クリスマスのパントマイムの観劇は家族の一大行事なのです)。誰に気兼ねすることなく、観劇することの喜びは計り知れないものがある。その喜びは、出演者にもスタッフにも分かち合われるのではないでしょうか。
そのプロセスの中で、劇場は単なる掛け声だけの「社会包摂」を超えて、コミュニティの一員に変化していく。むしろ劇場がコミュニティに包摂される。そんな劇場が生まれて来る可能性がここにあると思うのです。

私たちはすべての子どもが芸術を楽しみ、芸術により刺激を得る機会を持つべきであると信じています。しかし、残念なことに、多くの自閉症の子どもたちがアクセスに対し、不公平なバリアと直面しています。このプロジェクトは、子どもたちや若い人々を劇場が歓迎して受けいれ、インクルージブにすることです。私たちはすでに解説放送、字幕、手話つき公演を通して障害を持つ人々をケアしてきました。リラックス・パフォーマンスもあってもいいのではないでしょうか?

Jeremy Newton, The Prince’s Foundation for Children and the Arts


Hospital Theatre Project 2015

Relaxed Performance