Theatre&Policy No.1
June 2000



Making The Nation ―ぼくらの国をつくる


中 山 夏 織

25小学校、600人をこえる児童、教師、さらに18名の現職の政治家をも巻き込んだ演劇を使った一大プロジェクトが昨年8月から12月にかけて、スコットランドで実施された。スコットランドの児童青少年演劇のナショナルカンパニーでグラスゴーに拠点を置くTAGシアターカンパニーのイニシアティブである。
 プロジェクトの名称は「コミュニティの感覚」。実は、このプロジェクトは3ヵ年計画で実施されている「国をつくる」プロジェクトのほんの一部分に過ぎない。「国をつくる」は、ブレア政権のデボリュション(地方分権)政策により、ひとつの国として独自の国会を持つことになったスコットランドで、まさに歴史的転換点に生きる青少年たちの政治とコミュニティ意識の向上を目的とした3ヵ年にわたる一大演劇プロジェクトである。
 初年度にあたる1999年、TAGは、独裁と市民をテーマにしたシェークスピアの「ジュリアス・シーザー」をもって、小学校をツアー、また、はじめて選挙権を持った18歳の青少年を対象とした演劇、パフォーマンス、美術などをクロスさせたワークショップなどを実施した。が、最も野心的かつ周到なプログラムが、「コミュニティの感覚」である。 


コミュニティの感覚

 対象になったのは、9歳から11歳、小学校の上級生たちである。スコットランド中から25小学校の参加を得た。参加校は、毎月TAGから与えられたテーマをもとに、教師たちがドラマを使ったワークショップを授業の一環として実施していく。
 その毎月の課題は

1.     コミュニティづくり  
2.    コミュニティ運営

3.     コミュニティ財政    
4.    コミュニティ祝祭

与えられる課題は、黒白の回答のないものばかりである。例えば「コミュニティとは何か」「コミュニティの一員となるとはどういうことか」といったファンダメンタルなもの。だが、面白いのは、事実と空想の二つをときに区分し、ときによりあわせていくという点である。実際に子供たちが住むコミュニティをリサーチし、何が問題なのかといった現実を知る。それをもとに自分たちの住むコミュニティがどうあるべきなのかを考え、新たな町を創造する。どんな人々が住み、どんな歴史をもち、どんな社会なのか、空想を働かせていくわけだ。自分たちのコミュニティは日本の本州のそばにある小さな火山島で、かつては地震で苦しめられたが、いまは耐震構造の建物で大丈夫、産業は農業と水産業で・・・カリブ海に浮かぶコカコーラという名前の島が僕らのコミュニティで、大きなサッカースタジアムがあってゴルフコースもある。公用語は英語で、首都の名前はサニーサイド・・・。このような空想、そしてストーリーづくりのプロセスに役立つのが「ドラマ」の手法なのである。

 この教室でのドラマ指導を担うのはドラマのプロたるTAGのメンバーではなく、教師たち。英国でもドラマの素養を持つ教師は多くはない。プロが学校に入って指導するのもひとつだが、継続性に欠く。そこで、プロジェクト開始前にTAGは、スコットランド4カ所に教師たちを集めて事前に2日間のドラマのトレーニングを提供した。また、毎月の課題や、教師へのサポート、そして学校間・教師間の意見交換は、印刷物もあるが、主にインターネットを使って実施されるため、さらに2日間のコンピューターとインターネットの講習も実施された。実は、一つの重要な目的は、教師のドラマとインターネットのトレーニングなのである。子供たちは自分たちの創り上げたコミュニティをTAGのホームページにアップし、誇りあうのである(結果、アップできないでいる学校も少なくない。教師に強要するのではなく、できる範囲で担ってもらうというスタンスが見えてくる)。


子どもたちの民主主義

 自分たちのコミュニティをホームページにアップしたらこのプロジェクトが終わりなのではない。12月9日から11日、参加校からの各4名の代表がエディンバラに終結した。自分たちの「国会」を開くためである。そう、子供たちはスコットランドの国会議員として集まってきたのである。
 最初ははにかみながらも、子供たちはTAGスタッフやドラマワーカーたちの指示で、自己紹介しあい、積極的に「政治的」ネゴシエーションをはじめる。ここで議論されるのは、青少年にとっての政治的課題である。しかし、突然、そこに政府の科学者(俳優)が重大な事項を伝えるために登場する。彗星が接近しつつあり、地球に衝突するというのだ。子供議員たちは、グループに分かれ、スタッフやドラマワーカーの舵取りのもと、どう対処すべきなのかを討議する。地下へ逃げるべきだ、疎開する・・・。
 第2日目、子供たちが集まったのは、まさにスコットランド議会本会議場。本物のスコットランド議会議員らの挨拶のあと、さ、審議開始。議長は現職のスコットランド議会副議長が務める。最初の議題は「青少年の未来のために何をすべきか」。学費の無料化、ワールドカップ誘致、学校の給食の質など、さまざまな子供らしい関心事項が提示されるが、名議長の采配もあって、子供たちは、自分たちにとって大切なのは、「健康(スコットランドは非常にひどい記録を持っている)」「スポーツ&レジャー」「教育(授業料の完全無料化、もっとスペシャリスト教師を、学級定員を少なくして、もっとドラッグとアルコールについての教育を)」「青少年のホームレス」対策であると集約させていく。もちろん他にも問題はたくさんある。しかし、プラオリティを以ってなすべきことは・・・。
  次の課題は、先の彗星問題である。科学者(俳優)は、事態の深刻さを改めて報告する。そこにもう二人の俳優が加わって、議論を複雑なものにしていく。一人は軍のアドヴァイザー、もう一人は人道主義者である。膨大な数の人々の他地域への大移動(疎開)は問題を起こしかねない、あるいは、一人の命も奪われてはならないし、その疎開にあたって、何ら民族的、人種的差別が行われてはならない・・・。子供たちがこれらの意見を審議しているところに、傍聴席から闖入者(俳優)が乱入。個人の自由やモラル、尊厳へと、政治家(議長)、俳優らにナビゲートされながら、さらに議論の幅を広げられていく。

審議の結果、最終決定の前にオプションは、次の3つに整理された。

1.  軍による強制的な疎開

2.  市民自身で疎開は組織される、疎開する、しないは。個人の自由

3.  何もしない。なるがままで放置する(自然の摂理)。

 投票の結果は、それぞれ103811票。2に決定したが、子供たちには、これが完全無欠の回答ではないという思いが残る。すべての人々を助けられないかもしれない、しかし、そのためであっても個人の自由や尊厳を奪ってはならない・・・白と黒で割り切れない現実の社会を、子供たちは演劇的手法を駆使した民主主義的プロセスを通して体験したのである。


演劇と社会

 難しい決定を体験しながらも、一人一人の子供たちの感想は、決して背伸びしたものではない。グループで議論するのが楽しかった、政治家に会えたのがうれしかった、将来、政治家になろうと思った、議会で発表したなんておとなしい私には考えられなかったので自信がついた・・・。
楽しみながら、自然と問題を解決する能力を身につけていく。この演劇と教育の関係性は、これまでもさまざまなプロジェクトや実践において展開されてきた。そこに、もっと多くの糸を組織的に、現代的に絡ませたことに、このプロジェクトの意義がある。それを仕掛けたのは、TAGの若い芸術監督ジェームス・ブライニングである。彼自身はスコットランド人ではない。が、「演劇人として、この歴史的な変化の時を逃してはならないと思った」という。「すっごくエキサイティングだ」。
 プロジェクトには多くの支援・協力が集まった。スコットランド芸術評議会、6自治体、もちろんスコットランド議会のエデュケーション部の存在は大きい。さらに弁護士や、教師へのサポートに大きな役割を果たすコンピューター関連企業の支援も得た。時機と多くのさまざまなパートナーを得て、さらに緻密なプランと強い愛情で花開いた。「スコットランドだからできた」「政治的に過ぎる」という向きもある。が、演劇がコミュニケーションや遊びだけでなく、政治といった少し遠い存在をちかしいものにする媒体となることを示した好例である。

(アーツコンサルタント)

創刊号のページへ戻る

トップページへ戻る


演劇はつよい!?の頁へ戻る